●八王子の美しい夕日と創価大学と
創価大学は、昨2021年に大学が完成して50年を迎えました。開学された1971年(昭和46年)の4月2日、伸一は恩師・戸田城聖の墓前で深い祈りを捧げていました。その日は、恩師の命日。師弟の大学設立にかけた深い絆が語られていくところから、この章はスタートします。
【伸一は、その八王子という名の場所に、大学が建つことに、深い意義を感じたのだ。彼には、法華経の八王子の教えは、智慧の光をもって、世界を照らし出し、人類の幸福と平和を築く多くの人材を輩出する創価大学の使命を、象徴しているように思えてならなかった】(110頁) 法華経に説かれた8人の王子のことがその名の由来である八王子は、夕焼けが美しいことでも知られています。
【伸一はこの八王子で、何度か夕焼けを目にする機会があったが、その美しさにも魅せられていた。真っ赤に西の空を染める夕日は、荘厳であり、完全燃焼し抜いた勇者の気高さを感じさせた。童謡の「夕焼け小焼け」は、八王子の夕焼けを歌ったものといわれる。】(109頁)
大学がこの地に出来るということを教えていただいたある日。私は壮大な創設予定地を見渡せる場所に立っていました。命の底に、瞼の奥に、あの時の夕日の美しさが50年以上経っても焼き付いています。
創価大学にはそれぞれの分野で第一人者といわれる、錚々たる学者が集まって来られました。私の興味のある分野では、『国家悪』の著書で知られる大隈信行先生がおられたのです。実は、つい先程、創価大学に「大沼保昭」文庫が開設され、それを記念するシンポジウムが同大学平和問題研究所主催でオンラインによって行われました。大沼保昭さんは東京大学に長く在籍された著名な国際法学者で、大隈先生に深く師事されていました。
つい先年亡くなられたのですが、大隈先生とのご縁からその膨大な蔵書が寄贈され、文庫として活用されることになったのです。大沼さんは公明新聞にもPKO(国連平和維持活動)の時を始め、しばしば寄稿していただくなど、公明党と深い関わりを持ってくれました。私とは同い年ということもあり、個人的にも様々な交流を持たせていただきました。
●中世スコラ哲学の講演の持つ意味
伸一は創価大学の学生からの要請を受けて講演を幾たびかしています。1973年(昭和48年)の寮祭・第二回「滝山祭」での「スコラ哲学と現代文明」は、中世ヨーロッパ哲学に対するそれまでのキリスト教神学の〝御用哲学〟であるとのとらえ方を根底的に見直すものとして注目されました。(235-237頁)
【伸一は、この講演で、『スコラ哲学』は中世暗黒時代の象徴などではなく、むしろ、近世、近代の出発点であると、とらえ直したのだ。また、その時代は中世ヨーロッパを象徴するゴシック建築やボローニャ、パリ、オックスフォード、ケンブリッジ等の大学の形成に見られるように、優れた文化が花開いたことを述べた。さらに、この『スコラ哲学』の時代に、ヨーロッパ文明の原型が実質的に完成し、ルネサンス、宗教改革、ナショナリズムの勃興など、幾多の変遷を重ねながら、現代文明が築かれてきたことを論じていった】ーこの45分間の講演は【創価大学の使命を明らかにし、学生たちに次代を建設する深い自覚を促す、歴史的な講演となったのである】とされています。
実は、私の高校時代の友人で、「スコラ哲学」の研究を始め、日本でも著名な哲学者がいます。その彼も、この講演を読み、深く感銘を受けたといいます。私はいま彼を東洋哲学研究所に誘いたいと決意しています。
キリスト教神学については私自身、ありきたりの位置付けや勝手な思い込みをしていましたが、この講演で覚醒させられた思いがあります。この10年あまりの作家・佐藤優さんの壮絶な文筆活動の影響も少なくありません。創価大学での伸一の講演により、歴史認識にあっても、既成概念に捉われずに自由な挑戦をする大事さを学ぶことができました。
●深い感銘受ける「霊山一会儼然未散」の原理
伸一の創価大学生への厚い思いは枚挙にいとまがありませんが、私が一番感銘を受けたものは「霊山一会儼然として未だ散らず」との原理を一期生に語る場面です。(287頁)
「散ってなおかつ散っていない」という原理を明かし、生涯、「創価大学の一会儼然として未だ散らず」の心で生き抜くことを盟約にしようと提案されています。卒業して離れ離れになろうとも、生涯創大卒の誇りを忘れるな、との激励を学生たちは受けました。
福澤諭吉の作った慶大、大隈重信の早大、津田梅子の津田塾大など、創立者と学生の絆は100年を超えてなお深く強く語られています。創大は21世紀を経て更なる未来へと、輝く師弟の絆が語られていくのです。50年を超えた今、身の回りにいる創大生への激励を決意しています。(2022-3-19)