【91】一念の大きな転換とその契機──小説『新・人間革命』第23巻「勇気」の章から考える/10-18

●田原薫の激励に奮い立った二部学生たち

 創価大学の通信教育部の開学式が行われた1976年(昭和51年)5月。創価学会学生部の二部(夜間部)に学ぶ男子学生による「勤労学生主張大会」も東京・江東公会堂で開かれました。二部学生の間には、伸一によって「飛翔会」という名の人材育成グループが前年8月に結成されていました。伸一直結の育成によって学内活動も活発化していました。この章では、二部学生に対する様々な指導、激励が記述されています。(197-237頁)

   「私も夜学に学んだ。二部学生は、皆、私の大切な後輩たちだ。二部学生は大事だよ。貴重な青春時代に、働きながら学ぶという逆境に身を置いて、自らを鍛え抜いている。そうした青年が、大人材に育たぬわけがない。学会の宝だよ」(200頁)

    飛翔会が結成された日に、田原薫学生部長の指導が強く胸を撃ちます。伸一の提案を伝えると共に「これで、私たちの大成の種子は植えられました。その種子が芽を出し、花を咲かせ、勝利の実りをもたらしていくかどうかは、ひとえに、今後の個々人の決意と実践にかかっております。断固、戦いましょう!」と述べ、二部学生こそ、歴代会長の精神を受け継いで、師弟不ニの直道を永遠に歩み抜いていこうと呼びかけたのです。意気天を衝くかのような学会歌の大合唱。参加者のどの目も光り輝き、どの頬も紅潮していた、とあります。

 【彼らの置かれた状況も、立場も何一つ変わったわけではなかった。しかし、会場を後にした時には、使命に生きる歓喜が脈打ち、世界のすべてが変わったように感じられた。自身の一念の大きな転換がなされたのだ】(210頁)──こうした経験は私も幾たびかしたことがあります。興奮の坩堝と化した会場で、必ずや自分の使命を果たすべく頑張ろうと誓い、自身の当面する課題解決へ戦う一念を定めました。人間は、色んな場面で出会った人の話を契機に、あるいは出会ったモノやコトによって、立ち上がっていくといえましょう。

●「人間革命」の歌の完成の背景

 ついで、場面は同51年7月18日昼過ぎ。新しい学会歌「人間革命の歌」の作曲に伸一が没頭するところに移ります。テーマはかの昭和31年の参院選大阪選挙区に起因する大阪事件での関西の壮絶な戦いに触れられていきます。「7-3」に事実無根の公職選挙法違反容疑で不当逮捕された伸一は、「7-17」に出獄しました。ちょうど20年を迎える「7-17」に、「人間革命」の歌を完成させ、18日の本部幹部会で発表することにしていたのです。(253頁)

 伸一が新しい歌を作って、会員同志を勇気づけようとしたのは、単に20年の節目だったからだけではありません。当時世界平和のために中国、ソ連の社会主義国を相次いで訪問する一方、日本共産党の委員長と会っていたことなどが背景にありました。学会は共産主義に接近しようとしているのでは、との偏狭な心からの警戒感が渦巻いてきていました。また、宗門の僧侶からも言われなき非難中傷を浴びせ始めてきていたのです。

 当時、私は中野区男子部幹部の一翼を担って日夜飛び回っていました。「人間革命」の歌の完成にもただただ喜び、襟を正し厳粛な思いで歌っておりました。背後の種々の複雑な動きなど分からぬ凡庸な弟子でしたが、中ソ関係への伸一の尽力や創共協定締結に、時代のうねりを直感し発奮したものです。

●山本有三の戯曲「同志の人々」から汲み取る

 「人間革命」の歌が制作される過程で、当初五行詞だったところを四行詞に削らざるを得ないというくだりが出てきます。最終的に、二行目の「同志」にまつわる箇所が削られるのですが、それに関連して、作家・山本有三の『同志の人びと』という戯曲への、若き日の伸一の共感が語られるのです。ここは、極めて興味深い輝きを放っているように思われます。(270-275頁)

   この戯曲は、幕末の文久2年(1862年)に京都・寺田屋で捕らえられた8人の薩摩藩士をめぐる事件での船の中が舞台となっています。幕府の反応を気にした藩の圧力を前に、藩士たちの心は揺れ動きます。仲間の公家の親子たち同志を殺してでも、生きのびようとすることに傾く皆の心。それに対して、是枝万介という藩士が真っ向から異を唱えます。犠牲をいとわず大義に生きる道を選ぶものと、同志を裏切ってでもその場を凌ごうとするもの。相反する二つの立場が対比されて描かれていきます。

 青年時代にこれを読み、「志を持った人間の生き方に、鋭い示唆をなげかける作品であると思った」と強い感慨に打たれます。私たち広宣流布に生きるものとしても、ときに直面するテーマだと、考えざるを得ません。伸一は「同志」という言葉をいれたくも歌詞の流れ上削らざる得ず、その分だけ、中身を詳しく紹介して、私たちに熟慮を促されているのです。(2022-10-18)

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