Blog Archives

【121】決められた決勝点は取り消せない──小説『新・人間革命』第30巻下「暁鐘」(後半)の章から考える/5-31

●世界の縮図・米国を行く

   6年ぶりのニューヨーク訪問──1981年(昭和56年)6月16日に伸一一行は、欧州から大西洋を越えて米国へと到着しました。当時ニューヨークでは、現地の宗門寺院に赴任した住職の狡猾な学会批判によって組織が撹乱され、メンバーがなかなか団結出来ずにいました。そのため伸一は一人ひとりとの絆を強固にすべく深く意を決していたのです。翌17日に、ある高校の講堂で開かれた日米親善交歓会の場で、伸一の詩「我が愛するアメリカの地涌の若人に贈る」が発表されました。(20-25頁)

 【この詩のなかで、伸一は妙法を護持した青年には、この愛する祖国アメリカを、世界を、蘇生させゆく使命があると訴え、あらゆる人びとが共和したアメリカは「世界の縮図」であり、ここでの、異なる民族の結合と連帯のなかにこそ、世界平和への図式があることを詠っていた。人類の平和といっても、彼方にあるのではない。自分自身が、偏見や差別や憎悪、反目を乗り越えて、周囲の人たちを、信頼、尊敬できるかどうかから始まるのだ。】(23頁)

 さる5月29日の聖教新聞で、第19回アメリカ創価大学の卒業式の模様が報じられています。20カ国からの98人の学部生(19期生)と3カ国・地域の4人の大学院生修士課程修了の院生(8期生)の合計102人が飛翔した、と。池田先生は、「何があろうと『それでも立ち上がろう』と磨き、鍛え抜いてきた『創価の負けじ魂』があります」とメッセージを送り、激励しました。

 詩が送られてから42年。アメリカはいま分断と国力低下に苦しんでいます。そんな状況下でアメリカ創価大学出身の若者たちが各地に飛んでさまざまな分野で活躍することは凄いことだと思います。聖教新聞紙上のメッセージの見出しには「平和と人道の宝樹の林立を」「使命の舞台で共生の種まき」とありますが、必ずや大きな実を結ぶに違いないと確信します。

●全ては1人から、0と1の違い

 ついで21年ぶりに伸一は、カナダに向かいます。初訪問の時に出迎えたのは未入会だった1人の日本人女性だけでした。彼女は、日系2世のカナダ人と結婚して夫婦揃って学会活動に頑張ってきました。千人にも及ぶメンバーがカナダ広布20周年記念総会に集うまでに組織は拡大してきたのです。伸一は、初訪問の思い出に触れながら、一人立つことの大切さを次のように語っています。(33頁)

 「 『0』にいくら多くの数字を掛けても『0』である。しかし、『1』であれば、そこから、無限に発展していく。このカナダ広布の歴史はイズミヤ議長が、敢然と広宣流布に立ち上がったところから大進展を遂げ、今や約千人もの同志が集うまでになった。すべては一人から始まる。その一人が、人びとに妙法という幸福の法理を教え伝え、自分を凌ぐ師子へと育て上げ、人材の陣列を創っていく──これが地涌の義であります」

 私も中野兄弟会の会合で、「必死の1人は万民万軍に勝る」との原理を池田先生から教えて頂きました。本当にそうだと思って「必死になる」ことは、極めて難しく挫折を繰り返してきました。しかし、絶体絶命を実感した時に、真剣な唱題でその危機を乗り越えたことは数回あり、心底からの喜びを実感しました。

●各種詩人章を受ける

 カナダ・トロントからアメリカ・シカゴを経てロサンゼルスへ。その地で、詩人のクリシュナ・スリニバス博士が事務総長を務める世界芸術文化アカデミーから、伸一は「桂冠詩人」の称号授与を受けることになります。その際に、彼は、心に、〝私は、人間の正義の道を示し、友の心に、勇気を、希望を、生きる力を送ろうと、詩を書いてきた。この期待に応えるためにも、さらに詩作に力を注ぎ、励ましの光を送ろう!〟と誓ったのです。

 この後、伸一には、「インドの国際詩人学会から『国際優秀詩人』賞(1991年)、世界詩歌協会から『世界桂冠詩人賞』(95年)、『世界民衆詩人』の称号(2007年)、『世界平和詩人賞』(2010年)が贈られている」のですが、凡庸な私たちにとっては、その価値が殆ど分かっていません。恥ずかしく残念なことです。

 アメリカでの一切の予定を伸一一行が終え帰国したのは7月8日夕刻。実に、61日間に及ぶ、ソ連、欧州、北米8カ国への、ほぼ北半球を一周する平和旅でした。この章の末尾に、伸一が一瞬一瞬真剣勝負で挑んだことに改めて触れられ、【その奮闘によって、遂に〝凱歌の時代〟の暁鐘は高らかに鳴り渡ったのだ。今、世界広宣流布の朝を開く新章節の旭日は、悠然と東天に昇り始めたのである】と結ばれています。(54頁)

 名誉会長として初の海外訪問となったこの時の心境は、ホイットマンの詩『草の葉』に託されています。

「さあ、出発しよう!悪戦苦闘をつき抜けて! 決められた決勝点は取り消すことができないのだ」と。

(2023-5-31)

Leave a Comment

2023年5月31日 · 7:14 AM