●混迷する時代を開く「東洋哲学研究所」
第3巻で描かれるアジアへの旅の間に、伸一は東洋への広宣流布をどう進めるかについて深い考えを巡らせます。その結果として、二つの構想を持つに至ります。
一つは、「日蓮大聖人の仏法を弘めるうえからも、法華経を中心に研究を重ね、仏法の人間主義、平和主義を世界に展開していける人材を育む必要がある。それらをふまえ、東洋の哲学、文化、民族の研究機関を設立していきたいと思う(中略)名称としては『東洋学術研究所』でもいいし、『アジア文化研究所』でもいい」との構想です。(315頁〜316頁)
もう一つは、「真実の世界平和の基盤となるのは、民族や国家、イデオロギーを超えた、人間と人間の交流による相互理解です。そのために必要なのは、芸術、文化の交流ではないだろうか」と述べています。この二つの構想は、「やがて、東洋学術研究所(後の東洋哲学研究所)や民主音楽協会などの設立となって実現し、新たな文化創造の原動力となっていった」とあります。(316頁〜319頁)
「東洋哲学研究所」が5月29日にオンラインシンポジウム「21世紀における信仰と理性ー創立者の『スコラ哲学と現代文明』の視座から」を開いたことを私は聖教新聞紙上で知りました。その際に山崎達也同所研究員の『信における内在と超越ー中世スコラ哲学から法華思想へ』との講演タイトルに目が止まりました。実は私の高校時代の同期に、中世スコラ哲学や東方教父の分野に造詣の深い哲学者がいます。九州大学名誉教授の谷隆一郎君です。かつて、彼から「君の信奉する法華経と僕の学んでいるスコラ哲学について語り合いたいね」と問いかけられたことがあるのです。
池田先生のかつての講演『中世スコラ哲学と現代文明』を読んではいましたが、同研究所での取り組みなどには考えが及んでいませんでした。そこへ、この企画です。これはこれは、と思い東洋哲学研究所の旧知の蔦木栄一研究員に連絡しました。谷名誉教授の〝値打ち〟を知っている彼は大層驚き、喜んでくれました。さて、「東方教父」の大学者である我が友と「東哲」の縁結びの役割を果たせることになるかどうか。若き俊英の研究員に下駄を預けるだけではならじと、谷の代表作『人間と宇宙的神化』なる専門書と睨めっこする日々になりました。
●力尽きる人々を甦らせる「民主音楽協会」
民主音楽協会の代表理事を務めた吉田要さん(故人)とは、一緒に中野区創価学会の幹部をしていました。また、前代表理事の小林啓泰さんとも中野区男子部仲間で、「中野兄弟」の深い契りを交わした同志です。だからどうなんだと言われそうですが、池田先生の構想実現に生命をかけて生き抜いた人たちを身近な友人として、持っていることに心底から誇りを感じるのです。音楽、演劇を始めとする芸術活動の世界との交流に、取り組んできた群像には半端じゃないパワーを見るのです。
音楽が持つ力は、国境を越え、人種や言語の違いをものともしないと、巷間よく言われます。「9-11」や「1-17」「3-11」などの局地的巨大テロ、巨大災害に苦しむ被害者や被災者に生きる希望を与えてくれたのが音楽であり、各種芸術の力です。今また地球全体を差別なく襲うコロナ禍にあって、同じ「地球民族」としての一体感を持とうと共振させてくれるものが、これら芸術にはあります。
世界中に「思想なき、哲学混迷の時代」との幻想が渦巻き、地球を襲う大規模災害やパンデミックに人々が脅威を抱く今こそ、創価学会が生み出した東洋哲学研究所や民主音楽協会の底力を世に問い、更に知らしめる必要性を感じるのです。(2021-6-21)