【70】「師弟と御書」という原点ー小説『新・人間革命』第18巻「獅子吼」の章から考える/5-11

●映画『人間革命』の制作の背景

   映画『人間革命』を初めて観たとき、深い感動と共に、とても愉快な気分を私は抱きました。折伏や座談会の場面で、日常的に使っていた仏法用語がばんばん出てきて、あたかも裏方が檜舞台に出てきたかのように思えたのです。この章は、1973年(昭和48年)7月7日に行われた東宝スタジオでの試写会の模様から始まります。

 日本を代表する脚本家の橋本忍氏がこの映画のシナリオを引き受けてくれたところの記述が胸を打ちます。その決断は、映画「人間革命」を通して、人間の「心」を探究し、それを示すことによって混迷した現代社会の闇を晴らしたい、その思いから、でした。「山本伸一の講演集などを読むなかで、人間が自己の欲望をコントロールし、自律するところに、新しい文明、文化の創造の道があるという伸一の考えに、強く共感した。さらにその方途が『十界論』にあると、彼は確信したのである。」(16頁)と。

  地獄、餓鬼、畜生界から始まり、菩薩、仏界に至る「十の生命の働き」については、創価学会に入った誰しもが最初に耳にし、教えて貰う仏法法理の登竜門です。私もなるほど、とがてんし、幾度も幾度も友人に話してきています。私の場合は、「早朝に満員電車の中に飛び込んだサラリーマン」の場合に例を取って〝十の範疇〟の説明をして、悦にいっていました。映画では、戸田先生に扮した名優・丹波哲郎が熱演しています。

 映画の脚本作りに際しては詳細な資料収集が必要でした。その役目を担ったのが本部渉外部長・鈴本琢造たちであったことに触れられています。このモデルこそ、私が大学時代に肺結核で悩んでいた時に激励をしてくれた人でした。雨の降る日に中野・鷺宮の会場O宅の前で、濡れるといけないよ、と傘をさしかけてくれたことは、大袈裟だなあと、思いながらも忘れられない優しい心遣いでした。昭和43年初頭のことと記憶します。

●心が離れた聖教新聞記者たちへの思い

  この頃、「言論・出版問題」の後遺症とも言えるような深刻な事態が、聖教新聞の記者の一部に起こってきていました。これには「創価学会への確信を失い、広宣流布の情熱を失った記者の精神は、あまりにも空虚であった」とされ、伸一のあらゆる観点からの指導、激励が続けれていく様子が語られていきます。(40~60頁)

   【広宣流布の尊き最前線の学会員は、「言論・出版問題」で、学会員がどんなに非難中傷され、いわれなき悪質な喧伝がなされようが微動だにしなかった。(中略)  自分も体験をもち、身近な人たちの体験を共有してきた壮年や婦人には、仏法と学会への確固不動の確信があった。しかし、心揺らいだ記者たちは、いわゆる苦労知らずであり、確たる信仰体験に乏しかった。そのため信仰の根っこがなく、基盤が脆弱だったのである。】

 この当時、ほぼ同世代の記者たちの中から、残念な人が出ていたことを噂で聞きました。改めて、自身の信仰体験の尊さに深い感動をし、己が使命を自覚したものです。私が担当していた高等部員たちにも、親の信仰の後を継いだだけの2世が多かったため、「大事なのは信仰体験だよ。自分にないと思う人は、御本尊に、体験を掴ませてください、この信仰の偉大さを実感させてくださいと、拝むんだよ」と始終強調していました。

 ここでは、日蓮大聖人の「御義口伝」の「第五作獅子吼の事」が引用され、深く印象に残ります。(51頁)「師とは師匠授くるところの妙法 子とは弟子受くる所の妙法・吼とは師弟共に唱うる所の音声なり 作とはおこすと読むなり、末法にして南無妙法蓮華経を作すなり」(御書七四八㌻)

  これは法華経勧持品の「仏前に於いて、獅子吼を作して、誓言を発(おこ)さく‥‥」(法華経四一七㌻)のお言葉で、「一言すれば、師から弟子へと仏法が受け継がれ、師弟が共に題目を唱え、広宣流布の戦いを起こすことが、『獅子吼を作す』ことになる」と、「その中核こそ、本部職員であらねばならない。そして仏法の正義を叫び、人類の幸福と平和の道を示す聖教新聞は、師弟共戦の獅子吼の象徴である」と力説されています。

 「師弟」論を考えるにつけ、思い起こすことがあります。ある友人が、「仏法修行において、師の重要性は分かるけれど、とても御書通りの実践は難しい。池田先生のような凄まじい戦いは自分には出来ない。遠くから祈り、自分なりにやるほかない」と言ったのです。これは結構よく見受けられる考え方です。私の心中にも同調する思いが浮き沈みしないと言ったら嘘になります。

 これについては、中心に一歩でも二歩でも近づこうとする姿勢が大事だと思います。それがないと、結局は惰性に陥ってしまい、本来の軌道から外れてしまいます。それを防ぐためには、「自分なり・遠巻き」論ではいけないのだと、自らに言い聞かせています。(2022-5-11)

※この項、公開するのが遅れてしまいました。(5-17)

 

 

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