【112】島は一つの国──小説『新・人間革命』第28巻「勝利島」の章から考える/3-29

●島では実証を示す以外に道はない

 【不屈の精神は、不屈の行動を伴う。寄せ返す波浪が、いつしか巌を穿つように、粘り強い、実践の繰り返しが、偉大なる歴史を生み出す。】──この一節から始まる「勝利島」の章は、創価学会離島本部の会員たちへの伸一の徹底した激励、体験談の連続から成り立っています。1978年(昭和53年)10月7日に開かれた第一回離島本部の総会を前に、全国各島での会員の体験談が紹介されていきます。(352-434頁)

    そのうち、北海道北部の西海岸にある羽幌から海路で30キロに浮かぶ「オロロンの島」で知られる天売島の佐田地区部長の体験談が強く胸に迫ってきます。2度にわたる頭蓋骨陥没の大怪我を乗り越えて、民宿経営で大きな実績を残した彼の頑張りぶりには心底から感動を呼ばずにはおきません。そうした活動体験報告を聞いた伸一は次のような話を離島本部の幹部にします。

  「島では、実証を示す以外に、広宣流布の道を開くことはできません。学会員が現実にどうなったかがすべてです。だから、功徳の体験が大事になる。そのうえで、最も重要なのが、学会員が、どれだけ島のため、地域のために尽くし、貢献し、人間として信頼を勝ち取ることができるかです。それこそが、広宣流布を総仕上げする決定打です」(384頁)

 私が初めて選挙に出た1990年代初め、姫路港から海路約18キロにある家島、坊勢島、男鹿島には、実直で熱心な学会員が一支部を形成していました。なかでも壮年のOさんはそれこそ幾たびかの転落事故で大怪我をしながらもその都度乗り越えて蘇り、町議会議員としても絶大なる信頼を勝ち得ていました。全てがお見通しとでも言える狭い島空間だけに、その功徳の体験や誠実な人柄は、あまねく知られていました。公明党の支持率の高さは群を抜いていましたが、会員相互の励ましあいが実を結んだものと思います。

●傲慢さが自己中心を招く

 吐噶喇(とから)列島は、鹿児島港から約200キロ南の海上に連なる12の火山の島々からなっています。行政的には鹿児島郡十島村が構成されています。学会では、この十島村と竹島、硫黄島、黒島からなる三島村で十島地区が結成(1964年)されていました。鹿児島市内に住む石切広武が地区部長の任を受け、地区員の激励に当たっていましたが、そこに至るまでの彼の体験が紹介されていきます。

 経済苦にあった石切は、苦境を脱し、食品会社を起こして全国に販路を広げ、借金も返済するなど、見事に実証を示していきました。伸一が鹿児島を訪問した際(1958年)に、石切が現況報告をします。その口調に潜む傲慢さを伸一は見逃さず、厳しく注意するくだりに襟を正さずにはおられません。「題目を唱え、折伏をすれば、当然、功徳を受け、経済苦も乗り越えられます。しかし、一生成仏という、絶対的幸福境涯を確立するには、弛まずに、信心を貫き通していかなくてはならない。信心の要諦は持続です。(中略)   私はたくさんの人を見てきましたが、退転していった人の多くが傲慢でした。慢心があれば、自己中心になり、皆と団結していくことができず、結局は広宣流布の組織を破壊する働きとなる。あなたには、信心の勝利者になってほしいので、あえて言っておきます。」(390-391頁)

 南の果ての島々に通い続ける地区部長の発心の陰に、師のこうした厳しい指導があったことに感動します。広宣流布の戦いにとって、慢心、自己中心は、組織破壊のキーワード であると、改めて銘記するのです。

●一国を支えるような大きな心で

 第一回離島本部の総会には、全国120の島々から代表が集ってきました。その際に、伸一は島の広布推進の要諦を語っていくのです。(440-442頁)

 「一つの島というのは、見方によれば、国と同じであるといえます。したがって皆さんは、一国を支えるような大きな心をもって、自分が、この島の柱となり、眼目となり、大船になるのだとの決意に立つことが大切です。そして、常に島の繁栄を願って、島民のために活躍していっていただきたいのであります」と述べ、離島での信心即生活の原理をやさしく語っていきました。

 最後に、開目抄の「我並びに我が弟子・諸難ありとも疑う心なくば自然に仏界にいたるべし」から始まり、「つたなき者のならひは約束せし事を・まことの時はわするるなるべし」(御書234頁)で終わる有名な一節を通して、「たとえ、島の同志の数は少なくとも、励ましてくれる幹部はいなくとも、〝私は立つ!〟と決めて、広宣流布という久遠のわが使命を果たし抜いていただきたい」と強調していきました。

 大聖人の「疑う心なくば」と、伸一の「一国を支えるような大きな心をもって」の2つの言葉が私の胸に激しく響きます。離島で「一人立つ」精神で頑張る同志に負けるな、と。(2023-3-29)

 

 

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