【56】学生部の先駆的試みー小説『新・新人間革命』第14巻「智勇」から考える/2-18

●時代を揺り動かした大学紛争

 1969年(昭和44年)という年は、伸一が会長に就任して満10年になる1970年(昭和45年)までの総仕上げの1年であり、第七の鐘が鳴り終わる1979年(昭和54年)への10年のスタートに当たる重要な年でした。その年はまた世界で、日本で、大学紛争の嵐が吹きまくり始めていました。この章では、日本を揺るがした学生運動の実態について触れられる一方、学生運動の「第三の道」の具体的展開が青年たちへの厚い思いと共に、描かれていきます。

 この年に大学を卒業し、社会人になったばかり(公明新聞記者)の私は、在学中に直接見聞した学費値上げ反対闘争などの騒ぎを尻目に、懸命に記者修行に取り組んでいました。

 伸一は、明治大学会での懇談の場で、学生から「革命児として生き抜くとは?」と訊かれます。彼は世界史上の「昔の革命と同じ方法で、新しい社会の建設がなされると考えるのは浅薄」との認識のもと、「一人も犠牲者を出したくない」との思いが語られていきます。「人間のエゴイズム、魔性を打ち破り、人間性が勝利していく時代をつくるには、仏法による以外にない」「広宣流布とは、一個の人間の人間革命を機軸にした総体革命なんです。仏法の生命尊厳の哲理と慈悲の精神を、政治、経済、教育、芸術など、あらゆる分野で打ち立て現実化していく作業といえます」と述べていきました。(27-29頁)

 当時の私はこの指導を漏れ聞いて、「総体革命児」たらんと決意を新たにしたものです。高校の一年先輩のOさんが早稲田大の全学共闘会議議長で、同期のM君が佐世保の原子力空母エンタプライズ寄港阻止闘争で逮捕されたことなどを思い出します。私が慶大でなく早大に入り、創価学会に入会していず、師匠との出会いもなかったら‥と。人の出会いと巡り合わせの不可思議さ、人の世の「物語」の過酷さに改めて身震いする思いです。

●4権分立と教育についての提唱

 東京大学・安田講堂をめぐる攻防を象徴的出来事として、様々な大学現場で深刻な混乱が起こっていました。これに対しいわゆる「大学立法」の制定に走った政府自民党、右往左往するだけの大学当局など、目を覆うが如き状況が続きました。その中で、伸一は雑誌『潮』に「大学革命について」と題する論考を発表。教育権の独立を提案し、三権に加えて「四権分立案」を提唱するに至るのです。

【それはまさに、政府が推し進めている大学立法の対極に立つ主張であり、大学、そして教育の在り方を根本から改革する提唱であった。伸一の対応は実に素早かった。(中略)  言論戦とは、まさに「時」を見極める戦いであり、また、時間との勝負でもある】(36頁)

  立法、司法、行政に加えて四権というと、報道を指すことが一般的ですが、当時、教育の独立を挙げた伸一の提唱はまさに炯眼でした。

●新学同の動きと無名の2人の活動家の体験記

 「大学立法」を阻止する動きはその後、創価学会学生部の中で、「大学立法粉砕全国連絡協議会」から「新学生同盟」(新学同)の結成へと発展していきます。この章では、この動きを、当時のリーダーたちと一般のメンバーの双方から追っています。前者は、九州の中山正治、沖縄の盛山光洋。後者は北海道の森井孝史、大阪の海野哲雄の4人です。とくに後者についての記述は「古い革命」に生きてきた「世界」を彷彿とさせるような体験記が続きます。

 森井の場合。息子の姿に落胆した父親が自殺をしてしまいます。その悲しい出来事に何の救いの手も差し伸べなかったことを悔いる森井。そこに学会員の婦人が信仰の必要性を訴えるのです。海野ケース。武装闘争に引き摺り込まれ、警察にアジトを急襲されるのです。これを何とか逃れた海野に、学会の婦人部員が優しく励まします。この辺りの体験はかつて読んだ「ロシア革命」にちなむ小説ー例えばゴーリキーの『母』ーを思い起こさせるに十分な迫力ある筆致です。

 「新学同」結成の集会の場面では、議長の津野田忠之、副議長の岡山正樹、大谷宏明、書記長の村田康治の4人が登場します。ほぼ同世代のこの人たちのモデルを私はよく知っているだけに、懐かしい思いに駆られながら、更に引き込まれてしまいました。

 結成大会のその日、横浜に向かっていた伸一は途中その様子を見るために会場に車を走らせました。【「すごい数の参加者だな。学生部はいよいよ立ち上がったね。社会のために何をするかー実は、そこに宗教の大きな意義がある。これで、新しい時代の幕が開かれるね」】(77頁)

 「新学同」は結成後10余年を経て80年代初めに解散しますが、その果たした役割について【学会が、平和・教育・文化の運動を本格的に推進していく先駆的試みとなった】と総括されています。

 師の心に接し、遠い昔の学生たちの思いを今の若者たちに継承して貰いたいと切に思います。(2022-2-18)

 

 

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