新進気鋭の平和学者の安保分析に酔う

現役の頃には様々な方からインタビューを受けたり、党の政策についての考え方を問われた。今なお鮮明に覚えてる人といえば、櫻田淳氏だ。現在は東洋学園大学の教授をされているが、初めて会った当時は愛知和男衆議院議員の政策秘書をしながら、外交・安保政策の研究をされていたと記憶する。彼は身体に障害を持ち、言葉の発音などにも聞き取りづらいものがあったが、とっても優秀な頭脳を持った人物だと思われた。案の定、あれから様々な本を発刊し、論客として頭角を表している。しかし、そうした人は珍しく、殆どの方の思い出は遠い彼方に消え去っている。一か月ほど前、国会を久方ぶりに訪問し公明党防災対策本部の会合に出る機会があった。終了後に関係者と名刺交換などをしている際に、中川康洋衆議院議員の政策秘書・秋元大輔氏から挨拶を受けた。かつて私に党の安全保障政策をめぐってインタビューをしたことについてお礼を云われたのである。大変に失礼ながら直ちにその記憶が浮かんでこなかった。”白面の貴公子”といういささか古い表現がぴったりするほどの美青年なのに、印象が薄いとはどうしたことなのだろうか▼彼は前に創価大学平和問題研究所の助教を務めた平和学者であり、国際政治学者だという。驚いた。あれこれ昔話をしているうちに少しづつ記憶が蘇ってきた。数日経って彼から『地球平和の政治学』と『ジプリアニメから学ぶ 宮崎駿の平和論』の著作が送られてきた。誠実そのものと思われるお人柄への返礼の意味も込めて直ちに読み始めた。平和学なる学問は我々世代にはあまりなじみがない。だが、後輩たちに、なかんずく創価大学出身の連中にはその道に造詣が深い人が少なくない。衆議院公明党の近未来のエース・遠山清彦氏などはその最たるものだ。秋元さんの本を読みながら平和学という学問の山脈に連なる人々を遠望できたのは何よりもの収穫だった。1960年代後半に大学で国際政治学の魅力に憑りつかれた私の世代は、理想主義と現実主義の相克や核抑止論、勢力均衡論などの議論に憂き身をやつしたものだ。ベトナム戦争や中国文化大革命真っ盛りの時代に永井陽之助、中嶋嶺雄両先生の謦咳に接することができたことは生涯の誇りでもある。だが、今にして思えば、平和を希求するより、戦争を議論する、それこそ「木を見て森を見ない」論議に明け暮れた日々だったのではないかとの反省がないではない▼秋元氏の『地球平和の政治学』は、非常によくできた日本の平和主義と安全保障についての参考書だと思われる。昭和44年より今に至るまで、半世紀近く新聞記者とし、秘書として、そして代議士として外交・安全保障分野の政治を見つめてきたものにとって、感無量の思いを大げさではなく持ったと告白しておこう。何よりもこの本における圧巻は、日本の安全保障のアイデンティティに関して4つの理論モデルを使って考察していることだ。曰く1⃣平和国家(古典的リベラリズム)2⃣国連平和維持国家(ネオリベラリズム)3⃣普通の国(古典的リアリズム)4⃣アメリカの同盟国(ネオリアリズム)の4類型である。各章ごとにこの理論モデルを用いての解説は十二分に読ませる。「積極的平和主義」なる言葉をひんぱんに使う安倍首相の意図が奈辺にあるかは別にして、その言葉の正当な歴史的経緯もここでは分かって面白い。かつて公明党の目指す外交姿勢を「行動する国際平和主義」と名付けた張本人としては口出ししたいことが山ほどあるがここでは抑えておく▼秋元氏の指摘を待つまでもなく、「日本の安全保障のアイデンティティは複合的であり」、「まるで多重人格のように入り混じって」おり、海外の研究者のいうように、あたかも「一貫性のない『統合失調者』」かもしれない。著者はそうした複雑極まりない対象を精一杯分析しており、その力量は並々ならぬものがある。集団的自衛権をめぐる昨年の閣議決定については、「『限定』容認とは、(中略)『他国における武力行使』のための集団的自衛権ではないと理解される」とさりげなくかわしている。また、公明党の闘いについても阪田雅裕元内閣法制局長官の言葉を引用しつつ、公明党の意向が反映された結果として「自民党の改憲路線に対し、自衛のための武力行使の限界を示すことで、明確な『歯止め』がかけられたと認識されている」と淡々と述べている。自己の主張をあからさまに出さず客観的な表現に抑えているところはさすがだ。ただ、物足りなく思うのは、終章の「『地球平和国家』としての日本」に僅か10頁しか割かれていないことだ。これは明らかにバランスを欠いている。グローバルな国家像としての「地球平和国家」という、一番肝心のことについてはもっと書いてほしかった▼この人はジプリアニメを通じて宮崎駿氏の平和論に迫るというユニークな講義を大学でやってきた。宮崎ものは、『風立ちぬ』しか見たことがない爺さん世代の私は、慌ててDVDを借りにTSUTAYAに走った。「集団的自衛権のことがよくわかる!」との本の帯による触れ込みだが、『風の谷のナウシカ』など4本を観てそれがわかったという人はえらいね、と云うほかない。秋元氏のアニメの「平和学」的分析にはただただ舌を巻き、恐れいるばかりだ。ざっと二回ほど読んだがなかなか鋭い。DVDを観て、もう一度おさらいしながら読んだ結果、恐らくは宮崎駿氏の意図を別途読んだうえで、初めて知りうる世界ではないか、と思うに至った。自らの惨めさを噛みしめつつ、悔し紛れのあてこすりをしておく。秋元氏は、ことし35歳。春秋に富む新進気鋭の学者だ。10年後には堂々たる教授になる器だと大いに期待している。(2015・6・22)

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