著者の狙いは、近代日本の勃興から敗戦による滅亡までの日本の来し方を、世界史の中で眺めて、そこから教訓を得ること。もう一つは、将来の日本のために、普遍的価値観に基づく誇りある外交戦略を組み立てること。失敗の本質を歴史から汲み取り、これからの国家戦略の構築に活かそうという意欲的な試みだ。興味深い〝歴史の余滴〟やら〝歴史の皮肉〟など、読み応えある面白くてためになる記述が満載。ここでの「歴史の教訓」を多くの青年が拳拳服膺すれば、現代日本の知的レベはぐっとアップすることは間違いないと思われる▲故岡崎久彦氏(外務省出身の外交評論家)を「敬愛する」著者は、その死の直前に「何かを託された」との思いを抱いた逸話を明かす。私は、岡崎氏との私的勉強会(新学而会)の末席を汚し、晩年の同氏の謦咳に接した。一読者として殆どの岡崎作品を読んできた者として、弟子ともいえる兼原氏の、この論考に刮目する。大使在任中に周りの眼を気に留めずひたすら書きまくった師匠に比し、退官後に満を持して筆をとった弟子。師の所産を弟子が血肉化した〝師弟の二重奏〟に惹きこまれる▲元衆議院議員として気になったくだりに触れる。「東西ドイツの分断が、ドイツを空想的な平和主義に籠ることを不可能にした」と論及。あいも変わらぬ55年体制下にあるような議論が繰り返されている日本との比較が厳しい。「拡大核抑止の内容を真剣に議論出来る日本人の数は限られており、日本人一般の軍事リテラシーも著しく低いままだ」と残念がる。「政府による日米同盟強化の動き」が「混乱と政局」を招きかねず、自衛隊の動きを巡って「イデオロギー的な議論がなされている」現状への懸念が強調されている。現場を離れて8年。〝変わらぬ風景〟に溜息を否めない▲ただ、「集団的自衛権」の〝変形導入〟に多大の犠牲を払って貢献した公明党からすれば、「そう急ぎなさんな」との思いも。内政、外交・安保両面で「55年体制打破」に挑戦してきた者として、後輩たちの「あと一歩」にー多少の自嘲を込めつつー期待したい。著者は「価値の日本外交」戦略の構想をめぐる最終章で「日本単独の国力には限界がある。国際協調の中でのリーダーシップだけが、日本が今世紀に世界の中で輝く道なのである」と結論づける。だが、深まる一方の米国の分断化の見通しや、国際秩序変更への中国の露骨な意図についての分析に物足りなさが残る。(2021-7-25)