Monthly Archives: 1月 2021

安保研究の「知的怠慢」を指摘ー山本章子『日米地位協定』を読む

目が覚める思いがした。「日米地位協定合意議事録を撤廃し、日米地位協定の条文通りの運用を行うことによって、不完全ではあるが協定が抱える問題の大部分は改善される」ーこの記述を山本章子『日米地位協定』の終章で発見した時のことである。政治家として長く「日米地位協定」の改定をせよと、外務省や米国務省に要望してきたのだが、いつも日米一体の門前払い的対応に歯噛みするのみ。この視点は欠落していた。著者は、この議事録が1960年に締結されてから、60年を超えて公の場で論じられてこなかったのは、「単に政治の場やメディアで注目されず、知られていなかっただけ」で、「日米安保研究の知的怠慢のせいでもある」と厳しく断じている。もちろんご自身もその責めを負うことに言及されている。このくだりを読んで、政治の世界に身を置いてきたものとして、恥いらざるを得ない▲この書物を読むことになったきっかけは、昨年末に山本さんが毎日新聞に寄せた寄稿文である。元東京新聞論説主幹だった宇治敏彦さんの一周忌にこと寄せて「心から尊敬する人物で政治史の師である」との書き出しで、様々のエピソードを交えた心惹きつける内容であった。実は、宇治さんは、私が所属する一般社団法人「安保政策研究会」(浅野勝人理事長)の草創以来のメンバーで、理事をしておられた。中途加入した私に、色々と声をかけてくださる優しい先輩だった。版画入りの俳句集を出版されていたことも印象深い。この寄稿文を読んで私が感激した旨を同会の仲間にメールで知らせたところ、柳沢協二・常務理事(元防衛省官房長)から直ぐに反応があった。山本さんがこの『日米地位協定』で石橋湛山賞を受賞されたことなど、いかに有能な研究者であるかを教えて頂いたのだ▲この本は「日米地位協定」をめぐる一連の経緯について詳細にまとめられており、その価値は極めて高い。関心を抱く人なら座右に置いておくといい。役立つこと請け合いである。私の衆議院議員としての20年間は、ある意味で「無念なことのみ多かりき」歳月だったが、この問題はその最高峰の位置を占める。沖縄における米軍人による少女暴行事件など乱暴狼藉が起きた時には本土でも怒りが盛り上がる。被告人の裁判は勿論、身柄拘束さえままならぬ現実を変えるために壁になっている「地位協定」改定機運が高まるが、やがてしぼむ。その都度国会でも声が上がるが、結局は陽の目を見ぬままに終わってしまう▲この点について、沖縄海兵隊の元幹部で、今は政治学者のロバート・エルドリッジ氏と私はしばしば論争してきた(幾度か書いてきたので、ここでは触れない)。結論は日米地位協定の改定しかないと私が言うと、不思議に彼は黙ってしまう。昨年その謎が解けた。実はこの5年ほどの間、彼は沖縄における米軍人の犠牲になった女性たちのために戦ってきていたのである。昨年、逃げていた米兵を発見することに尽力し、遂に捕まえたという。彼はその経緯をある新聞に寄稿した。その見出しは「日米地位協定の改定を」であった。そこでは、日米双方の責任ある部局がそれに不熱心であり、日本の政治家も無力であることを批難していた。何のことはない。彼は自身の「善行」を隠していたのである。成果が出ていなかったからであろう。日本の武士道を思わせる彼の振る舞いに、口先だけだった私は〝負けた〟との実感を抱くほかなかった。(2021-1-29)

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行動する学者による憂国の外交指南ー北岡伸一『世界地図を読み直す』を読む

国連大使を経てJICAの理事長だった東大名誉教授の北岡伸一さん。彼と私は、これまでに僅かだけれども重要な接点があった。一つは憲法をめぐる政治家と学者の座談会(読売新聞主催)でご一緒して、「場外衝突」したこと(幾度か書いているのでここでは割愛する)。もう一つはこの人の出身地である奈良県吉野町に行った際に弟君の北岡篤町長(今は退任)としばし懇談したこと。前者でこの人の心意気を感じ、後者ではこの人の出自を知った。『世界地図を読み直す』を読み進めるうちに、この二つの出来事を懐かしく思い出す記述に出会った。この本は、行動する憂国の学者・北岡さんがJICAの理事長として世界の各国を訪問された際の行動録である。昨年亡くなられた劇作家で文明批評家の山崎正和さんが「知的な俊英であるだけでなく、教養豊かな文化人」である北岡さんの「まなざしが各国をそれぞれ個性的に捉えて」おり「魅惑的だ」(毎日新聞「読書欄」2019-6-23付け)と推奨されたように、日本の行く末に示唆を与えてくれる極めて重要な外交指南書である。国際政治と日本の関わりに関心を持つ全ての人たちにお勧めしたい▲北岡さんは、日本外交が対米、対中、対韓といった二国関係に偏りすぎていたことが行き詰まりの背景にあるとして、その立脚点を定めるべきだという。つまり、日本の外交は利害の調整ばかりに終始して、どこに立って何を目指すのかが分かりづらいと指摘しているのだ。このことを「はじめに」でおさえたうえで、「おわりに」の末尾に、日本の理念は「非西洋から発展した歴史を基礎に、民主主義的な国際協調体制を、それぞれの国の事情に応じて支援していくこと」であり、「それを自覚し、言語化し、発信し、かつ戦略的に行動すること」が日本外交の大方針ではないか、と結んでいる。これまで訪問した108カ国(JICAの理事長としては50カ国)のうち20カ国を取り上げて、それらの国々の分析と、日本との関係について考察をしており、読み応え十分な知的興奮を覚える面白い内容になっている▲冒頭(序章)に掲げられた「自由で開かれたインド太平洋構想」を、まず「日本の生命線」と捉えていくとの観点は大事だ。これは、中国の「一帯一路」に対抗する戦略といった次元ではなく、「インフラのみならず、信頼関係の構築であり、人づくりであり、自由と法の支配」を中心とする、死活的に重要な構想だという。その中で、「途上国の若者には、日本に来て日本の近代化や開発協力の経験学んで欲しい」として、JICA開発大学院連携への期待を述べておられることが、大いに注目される。第一章から第五章までの20カ国をめぐる記述は、私としてはベトナム一国に行ったことがあるだけで、あとはいずれも未知のことばかり。尤もこのうち、親しい友人が過去に大使をしていた、マラウイ(野呂元良大使)と東ティモール(北原巌男大使)のくだりには惹きつけられた。マラウイには「本当に貧しいアフリカ」があり、「青年海外協力隊が最も多くの犠牲を出した国でもある」ということを知って、驚いた。友人の苦労が偲ばれた。また東ティモールについては、日本がかつて強い関心を持ったのだが、今は「孤立した民主主義国」であり、地域の連帯からも外れているようだという。「日本のパートナーとして押し立てていくべき」で、「国益判断に立った外交イニシアティブが必要だ」との見解には、焦りを伴って共感する▲圧巻は終章の「世界地図の中を生きる日本人」。現在の国際会議がどのように行われているかをめぐって、ご自身の体験も交えての極めて興味深い内容だ。そのうち、韓国のカン・ギョンファ外相について「英語はうまいし、合理的で、グレー・ヘアーが魅力的な女性で」、「彼女の能力は評価している」と、ベタ褒めのところには思わずニヤリとした。美人は得するなあと、改めて思ったしだい。また、中曽根元首相の「昭和の岩倉使節団」についての記述には深い憂慮を感じざるを得なかった。「経済は長い停滞を続け、少子化が進み、巨大な政府債務が蓄積してしまった」日本は、「進歩を遂げたのだろうか」と自問し、「大きな問題に優先順位をつけ、時には妥協して前に進むべきだった」し、「進歩しないうちに、いつしか国力の停滞が深刻化しているのではないか」と憂えている。最後に、島根県隠岐・海士町について、「日本にあるフロンティア」としての取り組みを印象深く紹介しており、興味深い。かの後鳥羽上皇が流されたこの地に必ず行こうとの思いを改めて強く抱くにいたった。(2021-1-22)

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警察官誕生のドラマを鮮やかに描くー長岡弘樹『教場』と『教場2』を読む

昨年末から新年にかけてテレビドラマに嵌った。年末は『教場』、新年は『教場2』。それぞれ前編、後編が連続二夜にわたって放映されたのだが、主演のキムタクこと木村拓哉の魅力に取り憑かれてしまった。彼の魅力を知ってる人からすれば、何を今さらということに違いないだろうが。早速、本も買い求め急ぎ読んだ。発刊された7年ほど前に読むかどうか逡巡したのだが、今頃になったことは悔やまれる。テレビの方が良くできているものの、あとで補足するためには本も得難い▲いわゆる警察小説と違って、警察官が誕生するまでの背景が描かれる。志願者を篩いにかけて落とすことが狙いとあって、教官による過酷極まりない試練が課され、観ても読んでもハラハラドキドキする場面の連続。犯罪者そこのけの際どく悪どい事案も次々発生、短編の連作の形をとっていて読みやすい。テレビ映像ではキムタク扮する隻眼の風間公親なる教官が、シャーロックホームズそこのけの観察力でトラブルを解決し、小気味いいことこの上ない▲この小説(映画)の魅力は、警官がどのように犯罪を捉え、犯人を見つけ出すかのノウハウが描かれていること。医療や政治、経済をめぐる様々に話題になるドラマは多々あるが、こうはいかない。結局、面白おかしく取り扱われるものの、あまり日常生活に役立たない。やれ、『ドクターX』やら『半沢直樹』などといった超人気を博したものも、「私失敗しないんです」とか「倍返し」などのセリフは印象に残っても、それだけに終わる。映画『記憶にございません』など、政治風刺の喜劇とはいえ、あまりに酷すぎる内容で、脚本家の知的センスを疑う。そこへいくと、この小説は犯罪にどう立ち向かうか、微に入り細に渡って説いてくれる上質の面白さを有している▲風間教官の壮絶な訓練を耐え抜いて、無事に卒業し、現場に送り出される警官たち。風間が一人ひとりと握手し、激励の一言を投げかけるラストシーンには胸が熱くなった。こう書くとお分かりのように圧倒的に映像の方が存在感漲る内容であった。ファーストシーンの運動場での訓練場面は、米映画『フルメタルジャケット』の海兵隊のそれを彷彿とさせるもので、何かと考えさせられた。先日のNHK「クローズアップ現代」では、自衛官の自殺問題を取り上げていた。また、今日は富山の元自衛官による交番襲撃事件の初公判が報じられていた。妙に自衛隊に「風間公親」はいないのかとの思いに駆られてしまう。(2021-1-14)

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「首都移転」しかないー高嶋哲夫『「首都感染」後の日本』を読む

昨年2020年は明治維新から約150年の日本にとって、大きな転機となる年だった。75年前の先の大戦の敗北に引き的するくらいの。そんな年に作家の高嶋哲夫さんと私は初めて知り合い、そして親しい関係になった。彼の住まいが神戸・垂水であり、慶大出身ということもあって。この新年早々(4日)に親しい仲間たち数人と、異業種交流会(私が友人と共催)に集ったが、そこに彼も顔を出してくれた。高嶋さんは昨年一年で4-5冊もの本を出したとのことだが、別れ際に、そのうちの一冊『「首都感染」後の日本』を頂いた▲この本はコロナ禍の後に巨大災害が必ず来るとの確信に基づく予測を述べると共に、その対応策を明らかにしている。今の47都道府県、東京一極集中から、道州制の導入と首都の移転の必要を、である。これはこの人の年来の持論であり、その著作『首都崩壊』に詳しい。岡山県吉備高原に持ってくるべし、との具体的提案も詳細に展開していて迫真性がある。『首都感染』を読んで感心していた私に、次はこれ、さらにまた、と次々指示をいただく。こちらは読むのに精一杯だが、有難いことと思い直して挑戦している▲東京から首都機能を移転ーとりわけ国会を移転させること、とのテーマは1990年代にそれなりに議論された。私が当選する前年に「国会等移転法」が成立(1992年)し、阪神淡路大震災後の1996年に改正された。99年には政府審議会が「栃木・福島」、「岐阜・愛知」、「三重・畿央」の三地域を候補地にと答申している。しかし、バブル崩壊やら東京都の猛烈な反対の前に殆ど議論も進展せぬまま棚上げ、沙汰止みになっているのが偽らざるところだ。私も現役当時党内議論に少し関わったが正直言って興味は薄かった。今となっては不明を恥じる▲高嶋さんは、首都の条件として❶自然災害が少ないこと❷交通の便が良いところ❸防衛しやすいところ❹首都を造るに十分な土地があることーなどの条件を挙げる。安定した地盤と温暖な気候で、日本の中ほどという位置(北方四島から尖閣列島までの中間)にある岡山県吉備高原が最適だというのである。この選定を含めて今後の議論に注目し、遅ればせながら参画もしていきたい。彼の小説はいずれもリアルな課題を真っ向から取り上げて興味深い(特に政治家として)ものばかり。中身も表現ぶりもやや硬いとの評価をする向きが少なくないが、コロナ禍中にあって、最も聞くに値する重要な提案をされている人だと思う。多くの人に読まれることを期待したい。(2021-1-8)

★1月第一週の読書リスト【①長岡弘樹『教場』②山本章子『日米地位協定』③北岡伸一『世界地図を読み直す』④長岡弘樹『教場2』】←今年度から、私が並行読みしている本を挙げていきます。この中から、やがてこの「読書録」に書くことになるものが出てくる予定です。

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