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【160】「日本防衛」「地震対応」そして「人類の宿命転換」を━━新年の新聞各紙の論調を読む(下)/1-8

前回に続いて、読売新聞、朝日新聞と聖教新聞の新年号の論調を追います。

 まず、読売新聞。この新聞社は、毎年の元旦号では一般ニュース、特に安全保障関連のものをトップに持ってくることが多い。今年は、中国が昨年12月に、宮古海峡(沖縄本島と宮古島間)などで、海上封鎖に似た演習を行ったことを報じた。重武装をした海警船団が、沖縄県・尖閣諸島周辺に昨年12月に現れたことが複数の政府関係者からの情報で分かったという。これは同国が台湾有事を想定した上で、海上封鎖の範囲を拡大させようとしており、日本政府が警戒しているというのだ。強引な中国の海洋進出は、南アジア全域に顕著だが、この5年ほどは日本の尖閣周辺で、特に質量的双方で著しく増えている。とりわけ、軍艦並みの76ミリ砲を搭載した海警船が昨年6、12月に4隻づつも現れている。「現状変更の試み」として繰り返されているとの見方が専門家の間でも強い。これに対して、日本の国会での安全保障をめぐる議論は、「安保法制」関連法が成立したのちのこの10年ほどは、極端に低調である。「政治とカネ」や、経済格差の影響なども重要だが、国家の安全についての議論をもっと日常的に行なって、有事への構えを国民的レベルで共有する必要があろう。なお、「読売」は3日付けからAI社会の近未来を展望する連載を始めている。「日経」の連載と軌を一つにしたものとみられよう◆朝日新聞は、一面トップに「能登半島地震から1年」を取り上げ、防災を論じている。能登半島のこの一年を振り返ると共に、〝老いて縮む能登〟の未来が多くの自治体にとって、「近い将来と重なる」ことから、対応を迫る着眼である。例えば、都市部と各地方自治体が連携して、時節に対応して移転を促進するなど関係人口を臨機応変に増やす考え方が以前から着想されながら、なかなか軌道に乗っていない。もっと、国を上げての重層な取り組みが求められよう。また、「朝日」は、元旦から左肩に企画連載として『百年 未来への歴史 デモクラシーと戦争』を始めている。戦前の歴史を振り返ると、「勢い」という言葉が一つのキーワードになっていて、戦争への流れがとどめられなかったことが「歴史の教訓」として汲み取られるという。昭和天皇の「引きづられて了った」との言葉の引用は改めて衝撃を受けるが、現在只今の世界の状況が「百年前の再現」に直結しないとは言い切れない。そうならぬために、デモクラシーを強靭なものにすべきだとの論調が仄見える。「毎日」の連載とも共通するものといえよう◆以上に見てきた全国商業紙の傾向とは一線を画す視点での連載企画が注目されるのが聖教新聞。タイトルも『2030年へ 人類の宿命転換への挑戦』と壮大である。元旦号から始まった連載の一回目は、「人材を育む〝教育的母体〟」(上)。SGI (創価学会インターナショナル)は、米国・グアムで発足して今年で50年が経つ。SGI がスタートする場になった第一回「世界平和会議」で、池田大作先生が、〝世界は軍事、政治、経済という力の論理、利害の論理が優先されることによって平和が阻害され、常に緊張状態に置かれている。こうした状況を打破し、平和への千里の道を開いていくことこそ、宗教の本質的役割〟であることを強調したことが紹介されている。社会の繁栄と平和のために、貢献的実践を貫く「世界市民」たれ、との呼びかけである。5日付けの(下)では、世界平和に向けて、池田先生との対談でアンワルル・K・チョウドリ元国連事務次長が「政治家や国際公務員だけに任せていてはいけないと、声を大にして叫びたい。民衆が立ち上がってこそ、また市民社会が前面に出て改革を求めてこそ、より良き世界へと変革し、また創出していける」と、SGIへの期待の言葉を寄せている。強く共鳴したい。本文の末尾には、「我々が目指すべきは、未来の世代のために、人類が直面する難題に果敢に挑戦し、より公正で持続可能な世界を構築しゆく人材の育成である」(「創価学会社会憲章」)とする一方、「国際社会の期待に伴い、人材を育む〝教育的母体〟としての学会の使命は重大である」と結ばれている。現今の世界を覆う危機に対して、ただ憂慮するだけであったり、傍観者ではいけないことを痛感する。更に、この50年の池田先生の凄まじいまでの「人間外交」の成果が、誤れる世界のリーダーによって押し流されようとしていることに対する無力感を抱く人々がいる。これには強い憤りと失望を感じる。今最も大事なことは、民間外交に死力を尽くされた池田先生の後に続く行動である。今三たび迫り来る世界戦争と、地球環境破壊への危機はまさに「人類の宿命」との戦いである。それを転換する道に邁進することこそが今求められていると思われる。(2025-1-8)

 

 

 

 

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【159】「後退期」に向かう民主主義の危機━━新年の新聞各紙の論調を読む(上)/1-5

 選挙イヤーと言われた昨年は、SNS旋風が吹き荒れたことで、既成メディアは顔色なしの傾向なきにしもあらずだった。しかし、日本社会の大筋の世論はいわゆる大手紙の論調に左右される。毎年、正月元旦号及び松の内辺りの紙面で見てとれる風向きを私なりに把握してきた。今年はまず、毎日、日経、産経新聞から取り上げてみる。

 毎日新聞は年間を通じた特集「これまで これから戦後80年」を展開するとのこと。その皮切りとして、民主主義を考える「デモクラシーズ」とのタイトルで連載を始めた。第一回は、最新のデジタル技術を生かして民主主義の「アップデート」を試みようとする人々を取り上げた。姿かたちの見えない「民意」を探るためのツールとしてのリクリッド(Liqlid)なるもので、これは自治体の施策について市民の意見を募る仕掛けとしてのオンラインプラットホームである。すでにこのツールを導入している自治体は約60にのぼる。要するに現在の間接民主主義としての議会ではなく、直接民主主義に移行する仕組みを作ろうというわけである。世界でもこうしたデジタル民主主義の活用は着々と進んでいる。具体的には、台湾で「民主主義は不変ではなく更新されるものだ」と説く唐鳳(オードリー・タン)氏(初代デジタル発展部長)へのインタビューを試みている。日本でも宇野重規東大教授が『実験の民主主義』という著作の中で、デジタル技術を使った意見集約、議会を介さない政治参加、1人1票にこだわらない政治参加などの実例を紹介しており、私も当ブログのNo110で紹介した。この直接民主主義に近づく営みは間違いなくこれからの世界のトレンドだと確信する◆日本経済新聞は、戦争の飛び火やら、自国第一のポピュリズムが台頭してグローバリズムが逆行するなど、「逆転の世界」を14カ国・地域に40人の記者がいる英語メディア「Nikkei Asia」と共に取材して、世界の危機の連鎖に日本は備えよとの警鐘を乱打している。そのうち、「日本に必要な備えは、あらゆる危機に対応できる財政やエネルギー、金融市場の余力にある」とした上で、「少数与党で政策が停滞することは許されない。米欧がつくった国際秩序にただ従う姿勢はもう通用しない。企業も世界の供給網や販売網の再構築が不可欠になる」と強調。「まずは常識を捨て去り、逆転の世界を直視することから始めなくてはならない」と呼びかけている。注目されるのは、アジアからの視点として、「(トランプ政権の再来で)米国が去るなら別(の国)を探す」とばかりに、イスラム教徒が多く、歴史的経緯からも共産主義への拒否感が強いマレーシアやインドネシアでさえ、「経済や社会の利益を考えて、中国寄りになっている」と明かす。また、『歴史の終わり?』で知られる米の政治学者であるフランシス・フクヤマ氏への注目すべきインタビューを試みている。同氏は、米の覇権が終わり、多極世界に移ることを見通す一方、いま我々は民主主義の「後退期」(a period of democratic backsliding)にいると明言するものの、「永続はしないだろう。権力が個人や一族に集中する独裁体制は最終的に安定せず、人々はそうした社会での暮らしは望まない」からだと、楽観的に述べる。トランプ政権の寿命は4年だし、中国やロシアの体制も長続きしないとの見立てである。私も同じ観点に立つ◆産経新聞で注目されたのは、第40回正論大賞を受賞した外交評論家の宮家邦彦氏とBSフジLIVE  プライムキャスターの反町理氏による対談である。混迷の度合いを強める世界の情勢の中で、日本の国益と世界の安定をどう追求するかがテーマだ。宮家氏の論調で注目されるのは、第二次世界大戦の教訓から国際連合を作った世界が80年を経て、今新たなる戦争の危機を迎えているとの認識を示していること。ここで彼は、トランプ氏の再登場で「国際協調主義」が劣勢となり、「戦間期」が終焉する可能性に言及して、それへの備えを強調する。この辺り日経の論調と同じである。ただし、宮家氏は、その危機をチャンスにする考え方として、「勝ち組」に入ることを強調する。つまり、日本は第一次世界大戦後は、国際連盟に常任理事国入りするなど「勝ち組」だったのに、第二次世界大戦後は、秩序を破壊した責めを受けて、「負け組」に回ってしまった。その巡り合わせを、逆転させる好機は「戦間期」の後にやってくるというのだ。ロシアや中国、イランなどの「力による現状変更」を求める国が動く時に、それを止める側に回ることで、新たな「勝ち組」に入れるのだというわけである。だが、第三次世界大戦という危機を止めるための瀬戸際という重大な場面での日本の出番に疑問を持つ向きは多かろう。私も大いに疑問を持つ◆そう私が考えた矢先に、対談でも両勢力の衝突を巡って、日本が軍事力の行使を決断できるのかとの議論になった。その際に、宮家氏は、「(戦争をする覚悟があるかどうかについては)専守防衛を厳格に解釈し『反撃能力は相手の攻撃がなければできない』などとする公明党は危ういんじゃないですか」と懸念を表明している。加えて「労組連合」の支援のもとにある「国民民主党や立憲民主党にしてもどうか」と、軍事力行使に否定的な見方に立つ。こうした議論を読んで、私は、直ちに宮家氏に「『勝ち組』に日本が入るには、公明党(の存在)は危ういけど、『21世紀型の保守政権に脱皮』するには、公明党の中道主義の21世紀型展開が必須だと、読み替えました」とメールをした。軍事力云々はわざと避けて、回りくどいコメントをしたのだ。これに対して、宮家氏から「軍事力の使用にアレルギーのない健全な中道保守の存在がカギになると思います」と返事がきた。さてその役割を担う政党はどこか。消去法でいけば、健全かどうかは別にして、「維新」ということになる。さて自公政権内でこうした国家戦略をめぐる議論がなされているのかどうか、疑わしい。(2025-1-5)

 

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