世界史が求めた?起き上がり小法師ーエズラ・ヴォーゲル『鄧小平』

日本の外相が中国を訪れたのは4年半ぶりだという。4月30日に王毅氏と岸田文雄氏の会談を報じる新聞を見て知った。ということは、前回の訪問は民主党政権下。今その党は存在せず、安倍第二次政権下では初めてということになる。いかに日中関係が滞っているかの端的なあかしであろう。両国間の課題は数多いが、最大の外交問題はやはり尖閣問題であり、東シナ海をめぐる問題であることに変化はない。それにつけても思い起こすのは、巧妙極まりない言葉の操り方でトラブル拡大を回避してのけた鄧小平元主席のことである▼尊敬する先輩から「最近読んだ本で最も面白く、身につまされる思いがしたのはエズラ・F・ヴォーゲルの『鄧小平』」と巧みにいざなわれた。社会学者の橋爪大三郎氏がインタビューしたもので、上下二巻に及ぶ重い本編の集約版ともいうべき軽い本である。以前に取り上げた植木雅俊氏との法華経をめぐる対談と同様に、めっぽう読みやすい。「現代中国を理解するための必読書!」と帯に掲げてる通りに、大いなる手引きをしてくれる。昭和40年代から中国問題に関心を持ってきた身としても、待望の著作であることは間違いない。もはや本編にあたろうかとの根気は萎えがちであるがゆえに、「その生涯と業績の大事なポイントをすべて盛り込むもの」との触れ込みは有難い▼私は鄧小平氏に一度だけだが北京の人民大会堂で会ったことがある。幾たびとなく失脚と復活を繰り返し、中国の「起き上がり小法師」と半ば揶揄され、尊敬もされてきた人物だが、その印象はあまり快いものではなかった。したたかで狡猾なやり手というのが顔と小柄な体全体から醸し出された率直な雰囲気だった。あれから40年近い歳月が経って、中国を今日の名実ともに巨大な存在に仕立て上げたのが鄧小平氏だということがわかってみて、初めて自分があまりこの人物のことをわかっていないことに気づく▼橋爪氏に「二〇世紀後半から二一世紀にかけての世界史にとって、もっとも重要な人物だ」と言われてみて改めてそのスケールの大きさに気づいたような気がする。鄧小平氏は「共産党よりも国のために」という考え方できた、とのヴォーゲル氏の捉え方は正鵠を射ていると思う。尤も、その考えが「中国のためよりも世界のため」であってほしいというのはあまりにユートピア的すぎるだろう。しかしながらなかなか世界史的人物が出てきそうにない隣国の住民としては固唾をのむ思いで、その後の動向を気にせざるを得ないのだ。江沢民氏への評価など日本から見て違和感を抱くところや、突然に出てくる「パーソンズ」なる学者の名前とか、疑問を持つところもいささかある。が、これは「予告編」ということだから仕方がないのかも。ともあれ本気で中国と向き合うつもりなら、誰しも本編を読むしかないと思われる。 (2016・5・1)

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