広島の山奥での実践的な試みから現代人の生き方を根底的に問うー藻谷浩介とNHK広島取材班の共著『里山資本主義』が話題を呼んでいるというので読んでみた。事の発端は、2001年夏に中国山地における異様なまでに元気な年配者たちの革命的行動に始まる。衝撃を受けたというNHK広島総局の井上恭介チーフプロデューサーらが藻谷さんと組んで取材を始めた。
藻谷さんは、全国の市町村をくまなく歩いている地域エコノミスト。実は私が現役を退く少し前だから2年ほど前に国会の勉強会で講演を聴いたことがある。最前線の地域の実情を知り抜いている気鋭の経済人との印象を受けた。日本総合研究所の主任研究員であり、元をただせば日本開発銀行の銀行員だ。彼は少し前に『デフレの正体』という本で、「ものが売れないのは景気が悪いからではなく、人口の波に原因がある」との画期的な論稿を世に問うた。そっちは未だ読了してはいない。
中国山地の山奥で何が起こっており、そしてそこから何を感じ、どう今の日本の現状を切り取って未来への予測を打ち立てたのか。一言でいえば、里山を食い物にしてしまおうというのだ。里山にある木の枝を使って「エコストーブ」を活用するー知ってしまえば、なあんだ、と思うほど簡単な仕組みである。灯油を入れる高さ50センチほどの20リットルのペール缶の側面に小さなL字型のステンレス製の煙突がついたものがエコストーブの出来具合だ。この煙突部分に萌えやすいおが屑などをいれて着火して、木の枝をくべるというもの。真上に上がった炎はやがて真横に向きを変え、ストーブ本体に吹き込み、モノを温めていくことに。きわめてシンプルでお金も僅かで出来上がる。このストーブで煮炊きをし、部屋を温めていく。これが21世紀の新経済アイテムというわけだ。
こういう仕組みを著者たちは「里山資本主義」と呼ぶ。おカネの循環がすべてを決するという前提で構築された「マネー資本主義」の経済システムの横に、こっそりと、おカネに依存しないサブシステムを作ってしまおうという考え方である。これは単純に昔の暮らしに戻せと言うのでもなく、今の経済社会に反逆せよというのでもない。要するに、森や人間関係といったおカネでは買えない資産に、最新のテクノロジーを加えて活用することによって、マネーだけを頼りに暮らすのではなく、はるかに安全で安心な底堅い未来を現出させることが出来ると言う。
こうした主張を読んで、一つ大きな疑問が沸いてきた。私は直ちに、NHK広島放送局に電話し、井上さんを呼び出した。そこで交わした話は次回に。