(345)7つの国はどう危機を乗り越えたかージャレド・ダイアモンド『危機と人類』上下(小川敏子、川上純子訳)を読む

「危機と人類」というタイトルは、世界中がコロナ禍で喘ぎ、必死の対応を余儀なくされている現在、飛びつく思いがするほどうってつけだ。しかし、この本の出版は少し以前に遡る。それを知った上で読んだ。これまでJ・ダイアモンドの本はそれなりに齧ってきたが、正直なところ、いまいち私にはグッとこなかった。恐らくそれは取り扱われた材料が現代の国家、経済社会と乖離があったように、〝浅読みの私〟には思われたためだと思う。しかし、今度の『危機と人類』は、「危機を突破した7つの国の事例から、人類の未来を読む」もので、興味深い記述の連続であるだけに、極めて読みやすい。ただし、残念なことに、危機の原因として「感染症」が真正面から取り扱われていない。これは致命的な欠陥ではないが、大いに不満を持ってしまう▲俎上に乗った国は、フィンランド、日本、チリ、インドネシア、オーストラリア、ドイツ、アメリカの7カ国である。この選択には決定的な理由はないようだ。強いて言えば、彼がかつて住んだことがあったり、学問研究の上で興味を持った国々だということである。上巻で言及した4カ国は、2つづつ対になっている。前の二国(フィンランドと日本)については、共に周辺各国とは大きく違う言語を持つ国で、外敵の脅威からもたらされた危機をどう乗り切ったかが共通する。後の二国(チリとインドネシア)は、共に独裁的指導者を持った国であるが、内部の破壊原因にどう対処していったか、という切り口が同じである。ただし、フィンランドはソ連(ロシア)一国との長きにわたる因縁関係が主たるテーマ(このくだりは圧巻)。日本は東洋の後発国家として、西洋列強との闘いが主題(これは平板)である▲また、下巻のオーストラリアは英国との主従関係の変遷が描かれ、ドイツは自らが巻いた災いのタネをどう摘み取っていったかが明かされている。アメリカは現代世界の先駆を行く国として、〝これからの危機〟が問われており、強く引き込まれた。とりわけ、アメリカにおいて、合意をするための妥協が近年出来にくくなっているとの指摘には考えさせられる。トランプ大統領の登場を待たずとも、共和、民主の両党の間の亀裂は相当に深刻なことは想像できよう。分断は深く、広くこの国の前途を危うくしている。また選挙の投票率が大きく落ち込んでいる状態が続いていることも。アメリカのすぐ後を追う傾向の強い日本の明日の姿を見るようで他人事とは思えない▲しかし、新型コロナウイルスが蔓延する状況の前と今では、全く「人類の危機」という視点が違って見える。読んでいて、ここで扱われていることは、どうしても今は切実感を伴わないのである。第二次世界大戦以来の危機とも言われる事態の中で、大きな課題の一つは、民主主義と独裁主義との軋轢であろう。共産主義独裁という国家的形態を持つ中国が感染症を押さえ込む上で効力を発揮するのか。民主主義の自由が結果的にウイルスの自在を許すことになるのか。例えばこうしたテーマが、今再びの暗い影を地球の前途に投げかけてきている。著者は、人類の危機を歴史的に分析する手立てとして、個人的危機と国家的危機の両面を挙げる。それぞれの帰結にかかわる要因として12のポイントを上げており、興味深い。その手法を生かしながら、新型コロナがもたらす自分自身の危機と日本の危機を考えるよすがにしたい。(2020-4-11)

 

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