【38】2-⑤ したたかな戦略で封じ込めるかー石川好『中国という難問』

◆「大きく、広く、深く、多い」国

 今から11年ほど前の私の「読書録」(2012-2-11)に書き、電子版『60の知恵習い』に転載した石川好さんの本を、まず紹介したい。

 《先日NHKのラジオ深夜便を聴いていると、懐かしい声が聞こえてきた。作家の石川好さんが、中国の南京などにおいて、日本人による戦争被害をアニメや漫画で紹介する試みをしてきたことを話していたのである。彼が日中友好21世紀委員会の一員として、ユニークな運動を展開してきていることはかねて知ってはいた。しかし、これほどまでとは思わなかった。なかなか聞き応えのある中身で、強いインパクトを受けた。彼とは、私が新聞記者時代に取材をして以来、交友関係が続く仲である。彼が専門としてきたアメリカについての著作はほぼ全部読んできた。その後、中国に主たる関心のスタンスを移されてきたことは十分に知っていたが、この『中国という難問』は読んでいなかったのである。

 一読、非常に新鮮な印象を持った。世に、「嫌中論」や、「中国崩壊論」的な論考は数多い。それを十分に意識した上で、単なる日中友好を叫ぶだけでなく、「大きく」「広く」「深く」「多い」国としての中国をあるがままに捉えようとの試みなのである。ありきたりの「友好論」ではなく、ためにする「反中論」でもない。等身大のかの国を真摯に掴もうとするアプローチの仕方は、中国に関心を持つ者にとって極めて参考になる。

 56もの民族を抱える多民族国家・中国。その憲法に少数民族の処遇が掲げられていることを「絵に描いた餅」だとはいうまい。我が日本国憲法にも類似した項目は少なくないのだから。日中間に真の和解を実現するために、「日本国家から国民へ」と、「日本からアジアへ」の二つの謝罪が必要であるとしている。

 また、10年以上前からの持論である「非西洋社会を代表しての弾薬を込めた謝罪(したたかな計算による戦略的な謝罪の仕方)」を提案するなど、いかにもこの人らしい興味深いアイデアが込められている。「崩壊や分裂でなく、大統一に向かっている」中国との付き合い方を日本は考えるべきだという。本当だろうか、などとはあえて疑わないでおこう。現代中国の現場を知る人の声に、まずは真摯に耳をそばだてたい》

◆世界史を逆転させる「正義の夢想」

 改めて読み直し、古さを感じさせないことに我ながら驚く。なぜ今ここに再録したのか。それは、習近平の就任直前に石川さんが書いたものではあるが、大筋において、10年後の中国の現状を言い当てているからである。「本当だろうか」と疑った風を見せた私など、身の置き場に困惑するほどだ。ウクライナに牙を剥き、歴史の逆転ものかは、襲いかかったプーチンのロシアに、こよなく気を遣う習近平・中国の明日を疑う人はあまりいない。台湾併合から尖閣諸島(魚釣島)に手を伸ばしてくることは明白だとの見たてが、今ほど現実感を伴って聞こえることはないのである。

 石川さんの述べた「謝罪論」とは、日本が自らのかつての植民地主義を、中国を始めアジアに謝って見せること(ポーズだけでなく、国民一人10万円、総額12兆円ほどを弁償)をさす。非西洋社会を代表しての日本の「謝罪」によって、西洋社会に「過ち」を覚醒させ、同じ行為を促し、破産に追い込むという算段である。過去の歴史的名謝罪の主役だったヴァイツゼッカー(対ナチス)やエリツイン(対シベリア連行)、レーガン(対日系米人)の巧みな演技を駆使しての「謝罪」を連想させ、日本に決断を迫ってくるのだ。この〝石川流謝罪のすすめ〟は、荒唐無稽な夢物語だと切って捨てるには惜しい着想と思われる。

 被植民地国家群の対西洋植民地主義への一斉蜂起は、世界史を逆転させる「正義の夢想」だからである。ロシアのウクライナ戦争に端を発し、中国の台湾奪還、北朝鮮の日本報復を想起するという「地獄の連鎖」より遥かに心地よい響きを持つ。今、プーチンのロシアに対して、反戦の声が同国内から起こってくることを待望する向きは極めて大きい。と同じように、中国における反習近平の動きが気にならぬといえば嘘になる。「露中対欧米日」の専制主義と民主主義の確執を前に、かつてのロシアにおける「ゴルバチョフの役割」、中国における「周恩来の存在」──ここらを睨んだしたたかな戦略で、北東アジアの〝今再びの惨劇〟を防ぎたい。

【他生のご縁 北前船フォーラムのリーダーとして】

   石川好さんと先年、淡路島で久方ぶりに再会しました。作家デビューから参議院選出馬、民主党政権のブレーンなどを経て、秋田公立美術工芸短期大学長時代に、私の年来の友人のA氏やK氏たちと一緒に立ち上げた『北前船フォーラム』の代表としてやってきたのです。

 その当時、「瀬戸内海島めぐり協会」専務理事の仕事を手がけて悪戦苦闘していた私は、先達の知恵に学ぼうと出かけました。歴史と伝統の厚み、多層的人脈のスケールの大きさなど何をとっても敵わない力の差を感じました。トップはこちらも負けていない大物(中西進先生)なので、ひたすら裏方の力の差であることを思い知らされたものです。

 

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