(197)世界の今をどう見るかー宮家邦彦『トランプ大統領とダークサイドの逆襲』を読む

タイへの旅から私が帰ってきたその日に、外交評論家の宮家邦彦氏が姫路にやってきた。地元企業関係者らから講演を求められての訪問のついでに、会おうということになった。彼が外務省安全保障課長時代に、外交安保部会長として色々と付き合い、外務省退官後も時に応じて勉強会にお招きしたことがある。このところ疎遠だった間に、彼はメディアの寵児となっている。関西一円での人気テレビ番組『そこまで言って委員会』の常連メンバーで、大きな外交案件でコメントを求められて発信をする一方、国際政治の今を読み解く本を次々と出版している。陸に上がった魚のように、国際政治の現場に疎くなっている私としては眩いばかりの存在だが、無謀さも顧みず”昔取った杵柄”を振り回して立ち向かった▼最大の関心事は、トランプ米大統領の登場に伴う世界の行く末。彼はこのテーマを「ダークサイド」というキーワードで見事に料理してくれた。それって、映画『スターウオーズ』に登場する、悪の皇帝「ダースベイダー」が陥った人間の暗黒面のことをさすという。米国の民衆の間に蔓延する不平、不満をトランプ氏が巧みに束ねて勝利をつかんだ。で、今や世界中にこれと類似の傾向が見て取れるという。この話は年末に緊急出版した『トランプ大統領とダークサイドの逆襲』に詳しい、と。対面する相手の近作を読んでおくことは鉄則なのに、つい見逃してしまっていた。恥ずかしい限り。加えて、私は彼にとって外務省の仲間である佐藤優氏のことを口にしてしまった。直ちに「彼とはこの間対談本を出しました」と、きた。『世界史の大転換』である▼かくして二冊の本を並行して読む羽目になった。『ダークサイドの逆襲』を読んだうえで、『世界史の大転換』を読むと、当然ながら宮家発言部分を中心に極めて分かりやすい。「日本の政治がいまだ、アメリカや欧州のような大衆迎合的ナショナリズムに陥っていない理由は何か。誤解を恐れずにいうならば、安倍首相個人の力量に負うところが大きい」とし、「『ダークサイド』右派の暴走をうまく吸収している」とのくだりは、私との懇談の場面でも強調されていた。「日本の政治の安定」に安倍首相が大いなる役割を発揮しているかを力説していたことが耳朶に残っている▼国際政治の読み解き方として、「ダーク(暗い)か、ブライト(明るい)か」は、いささか乱暴ではないか。またそれって支配者階級と被支配者階級の相克、むかし社会主義革命前夜に見た光景とどう違うのか。あれこれ疑問は沸くものの、これからのパースペクティブ(見通し)を切り拓く上で、今風の切り口として格好のものと言えることは間違いない。こうした「言語象徴」をさらっと持ち出すあたり、ただならざる才能の持ち主だ。多くのひとに読んでもらいたい現代の最先端を行く「国際政治入門」としてお勧めの本だ▼全体的に軽いタッチだが、最終章の「地政学リスクとは何か」はそれなりに歯応えがある。国際情勢を見るポイントとして、1)地政学の「地」は地理の「地」であること2)「パワー」とは動くけれども見ることができない3)パワーは因数分解して相互の関係性を考える4)地政学では「経済合理性」を優先してはいけない5)地図はひっくり返して見ることーの5つを挙げている。いずれも味わい深い。冷戦から新冷戦、ポスト新冷戦を経て、久々の世界史の転換期の到来。これを読み取るうえで貴重な水先案内人に大いなる期待をしたい。(2017・1・29)

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