(206)「おもてなし」の本質ーD・アトキンソン『イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る』を読む

世界文化遺産・国宝「姫路城」を訪れる外国人観光客が凄く増えたように思われる。かつて年間100万人を超える程度であったのが、いまでは200万人を有に超えている。その増えた分の相当部分は外国人ではないか、と推測する。中国、韓国、台湾など東アジアの人々は殆ど外見上日本人と変わりないが、青い目の外国人は容易に分かるだけに昨今の変化は眼をみはるばかりである。その人々が姫路城にやってきて果たして満足しているのかどうか。一人ひとりに訊くわけにもいかないので想像するしかないが満足度はあまり高くないのではないかと懸念している。それはこの城の持つ醍醐味をしっかりと分からなければ、ただお城に上るだけでは天守閣から眺める風景はあまり美しくない街並みが見えるだけだからである▼デービッド・アトキンソン『イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る』を読んでつくづくと感じたのは、日本文化の背景についてしっかりと説明することの大事さである。「おもてなし」という言葉が先行しているだけでは外国人観光客を満足させえないのである。東洋的、日本的なものの美しさや神秘性だけを満足せよといっても限界があることを意外に日本人は分かっていない。この人物は元ゴールドマン・サックスの金融調査室長で今は小西美術工藝社の社長。金融アナリストとして活躍するなかで、日本の伝統文化の魅力に惹かれ、国宝や重要文化財の補修を手がける同社に入り、今では伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。この本は3年前に出版されたものだが、ある自民党の大物政治家から推薦され、寄贈を受けた。雇用400万人、GDP8%成長への提言もさることながら、日本復活の秘策は「観光立国」にあり、という触れ込みに多くのひとが注目しているようだが、私も色々とヒントを得ることができた▼ここで、かれは「日本の文化財が単なる『冷凍保存のハコモノ』になってしまっている」ことを嘆く。たとえば京都の二条城に行っても、大広間に人形が並んでいても、それにまつわるドラマをはじめ詳しい説明がない。「畳は古く、ふすまや障子を外し、本来あるべき調度品もお花もない。中を拝観しても、そこで何がおこなわれ、どのように使われたのか外国人にはさっぱりわかりません」という。さらに文化財を見る場面で外国人が歩きスマホをしているのは、スマホを通じてネットでその文化財の詳しい説明を検索していることが多い、と。こうしたことを通じて、日本の「おもてなし」の究極の本質は、外国人に対して、日本文化の背景を解きほぐすことにあるのではないか、と主張しているのだ。なるほどと思いつつ、日本人ですらわかっていないことかもしれないのに、といささか暗澹たる気分になってしまう▼淡路島への船を通じての旅ー関空航路の開設に取り組む事業に関わる私としては、姫路城もさることながら、淡路島観光への外国人の誘客が気にかかる。今、中瀬戸内海、西瀬戸内海は沿岸各県の努力で、それ相当の好評を博しているようだが、東瀬戸内海の方は殆ど手つかずだ。今私たち関係者が考えている観光コースは、大阪湾から神戸港、明石港、姫路港を経て家島群島、淡路島といった島々への船旅である。ゴールとしての淡路島にはそれこそ伊弉諾神宮という日本の国生みの原点が存在する。これをどう外国人に説明するか。日本でもあまり理解されていない風があるのに。そのあたりに心を砕くことから全ては始まるということを、この本から強く考えさえられたのである。(2017・4・20)

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