なぜ医者は小説を書くのか、のふかーい理由(27)

医師で作家の渡辺淳一さんがつい先日亡くなった。大胆に推測すると、全国の同姓同名の皆さんはお悔やみの想いとともに、ホッとされたかも。恐らく様々な場面で名乗る機会があるたびに迷惑されたろうと思うからである。先日もラジオから聴こえてきた「ワタナベジュンイチです」との声音が苦笑いを含んで伝わってきた。正確には、かのように思えた▲ともあれ巨星墜つ、である。かつて公明新聞に連載小説を書いて頂いたことがあるが、大いに物議を醸した。日経新聞の『失楽園』ほどではなかったのが残念であったが…。我が公明新聞の編集責任者もなかなか味な人選差配だと思ったものだ。一度はお会いしたいと思いながら叶わぬままとなった▲恐らくは彼の絶筆ならぬ”絶口”となった文章を読んだ。19人の作家たちのインタビュー集『作家の決断』である。この中で、私が会った覚えがあるのは、浅田次郎、阿刀田高、西木正明の三氏だけ。後は本を通じてしか知らないが、何れも人生の岐路で、どう障壁を乗り越えたかを語っており、興味は尽きない。尤も、直木賞を始めとする小説家の登竜門やらに悪戦苦闘した話も多くて、少々閉口しないでもなかった。そんな中で、渡辺さんはやはり異色というか、出色である▲一番読ませたのは、医学部に入って解剖書を読み、実際にそれに立ち会って、全身よろめくほどの刺激を受けたというくだり。「人間って、形態学的には全く同じなのに、動いてみるとみんな違う」ことに感動して「本格的に小説を書こう」と決意した、と。「医学は極めて文科系な学問」だとの言い回しも面白い。それで、医者が次々と政治家になったり、作家になるんだな、と妙に感心させられもした。それにつけても「僕は結婚は打算で、不倫は純愛だと思ってる」というセリフに、ドキッとしない男はいるだろうか。ああ、奥さんのことが気になって仕方がない。(2014・5・10)

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