(269)観光・日英論争を仕掛けたくなるーデービッド・アトキンソン『新・観光立国論』を読む

先日淡路島で開かれたシンポジウムでは、デービッド・アトキンソン氏による講演がお目当てだった。今が旬の観光評論家(私の勝手な命名)である。元ゴールドマンサックスのアナリストで、今は小西美術工藝の社長が本業。日本の国宝や重要文化財の補修を手がけている。そして、日本の伝統文化財をめぐる様々の改革提言を行政に働きかけ、そのことを通じて観光の重要性を随所で呼びかけている。シンポジウムの見聞録はついこの間の私のもうひとつのブログ『後の祭り回想記』に「『変な外人』の素晴らしすぎる洞察力」と題して掲載したばかり。そのシンポジウムが終わった際に、会場で私は名刺交換した。「元衆議院議員です。あなたのことは、二階自民党幹事長から貰った『イギリス人アナリスト  日本の国宝を守る』を読んで知りました」と伝えたものだ■その際の彼の講演があまりに聞き応えがあったので、つい3年前に出版された『新・観光立国論』を図書館で借りてきて読んだ。中身は当然ながら、あの日の講演とほぼ同じ。人口減が進む日本は産業としての観光業を打ち立てないと、とても生き残っていけない。気候、自然、文化、食事と観光に大事な4条件を全て持っていながら、その活かし方に気づいていないというもの。高級ホテルが不足している、文化財が活用されていない、おもてなしは観光の動機にならないなどの講演コンテンツもほぼ一緒。こう、比較して見ると、3年間、観光分野で全く日本は進歩していないということになる。私が議員を辞めてからのこの5年間、著しくインバウンドが増えているというのに、である■「少子化が経済の足を引っ張る日本。出生率はすぐには上がりません。移民政策は、なかなか受け入れられません。ならば、外国人観光客をたくさんよんで、お金を落としてもらえばいいのです。世界有数の観光大国になれる、潜在力があるのですから」という主張は、魅惑に満ちていよう。観光業に関わってほぼ3年、理屈は分かってきていても今一歩実践がついていかない私にとって、ー極めて示唆に富む内容の本ではあった。そんな折も折、公益財団法人・大阪観光局の理事長を務める溝畑宏さんに出会った。この人、自治省出身のれっきとした高級官僚でありながら、2002年に大分県に出向して、フットボールクラブの代表となっていらい、2008年にはJリーグナビスコ杯優勝に導くなどの力を発揮。2010年には民主党政権時の国交省観光庁長官に就任した。そして、今の立場には3年前から。アトキンソン氏の本が出た頃と一致する■これまで二度ほどお会いしたが、なかなか元気というか、歯に絹着せぬもの言い振りが気持ちいい。尤も、それ故に敵も多かろうと、我が身を顧みず、心配もしてしまう。三度目となった先日の出会いでは、低迷を続ける淡路島のインバウンドに向けて、アドバイスを頂く趣旨が狙いであった。高級志向を持つ外国人富裕層に焦点を絞っていくコンセプトの確立を強調された。具体的には明2019年のラグビーのワールドカップ大会に東大阪、神戸を目指してやってくる、イングランド、アメリカ、ニュージーランド、スコットランド、オーストラリアなどといった国々のサポーターに目をつけよ、というのである。ラグビーの世界大会が日本であるということは漠然とは知っていたものの、それに観光のターゲットを絞るなどとは思いもしなかった。我が身の至らなさに身がすくむ思いだった。先方は大阪へのインバウンド客の激増に気を吐き、来るべき大阪万博やIR(統合型リゾート)の誘致に向けて意欲を燃やしているとあって、意気揚々。私が話の中で、アトキンソン氏のことを持ち出すと、「あんな外人なんか(の言うことを信じるの)」と一蹴された。日本の関西方面の観光客増にひと肌もふた肌も預かってるとの自負心が言わしめたのだろう。さて「観光・日英論争」、どちらに軍配が上がるか。そのうち直接対決でも仕掛けて見るか。(2018-8-19)

 

 

 

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