高まった興奮後のいささかの失望ー横山秀夫『ノースライト』を読む

横山秀夫の本にはいつも興奮させられる。『動機』『クライマーズ・ハイ』『第三の時効』『半落ち』『64』などから、数多い短編にも。今回数年ぶりに満を持して書かれた『ノースライト』も、読む前からのワクワク感があった。予想に違わずグイグイと引き込まれた。実在した建築家ブルーノ・タウトの影を追いながらの筋立ては、いささか高級感が漂い、これまでのものとは趣が異なる。その分一層謎解きへの興味は高まる▼この物語は、建てられた邸に注文主が入った痕跡がないまま姿を現さないという謎に、建築士が挑む形で進む。それに加えて、建築士の夫婦の離婚、そして娘との交流というお馴染みのパターンが加わり、さらに、彼が縁あって雇われる友人のちっちゃな建築事務所の建築コンペでの大事務所との競争という要素が絡む。この筋立てのなかに、タウトが作ったと思われる椅子の由来が浮かぶ▼全体を通じて、殺しの場面や血生臭さはない。死も、殺人ではなく、事故死か自殺かとの差異をめぐるものがメインだ。更に、辛うじて怪しげな男の存在が随所に影を落とすものの、恐怖感はさしてない。トーンとしてはどこまでも優しい。後半になって注文主と建築士の双方の父親の過去が顔をだし、急展開していく。基底部に「鳥」の存在があり、九官鳥が重要な脇役を演じるのは面白い。更に遺児のために父親の建築物を遺すとのくだりには胸打たれる▼こう書いてくると、お察しのようにいささかこれまでの横山作品と比較すると、物足りなさは覆いようがない。しかも、導入部で重要な役割を果たした椅子がなぜこの邸に持ち込まれ、そして残っていたのかの説明がない。読み終えて妙に気懸りである。わざと余韻を残すためか、はたまたこちらが読み落としたのか。だが、こういう推理小説もいいかもしれない。これなら自分にも書けるかもしれないという無謀な思いを抱かせる分、読者に限りなく優しいように思われる。(2019-4-25)

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