新型コロナウイルスの蔓延と人の世ーアルベール・カミユ『ペスト』(宮崎嶺雄訳)を読む

新型コロナウイルスが中国・武漢市で発生して、この巨大都市からの人の出入りを禁止するといったことが話題になった時に、随分前に読んだ記憶がある本を思い起こした。アルベール・カミユの『ペスト』である。ネズミを介在させた伝染病ペストと新型コロナウイルスによる感染症との違いはあれ、迫られる対応など考えさせられる類似点は少なくない。都市の封鎖やクルーズ船内での隔離など、今現に起こっている緊急事態を前にざっと読み返した▼封鎖状態に陥り、閉じ込められた人間が密かに自分だけ脱出を試みようとしたり、キリスト教の神父が、この事態は人々の罪のせいで起こったのだから、まず悔い改めよとの説教したりする場面が印象に残る。主人公の医師が懸命に救助活動に従事する姿に、今回の武漢で必死の診療行為の中で亡くなったとされる中国人医師像が重なった。また、過酷な状況にもかかわらず、助け合う人々の振る舞いに、クルーズ船におけるイタリア人船長のもと一致団結した行動をとったとされる乗組員の姿も重なった▼この本でカミユは、人生における究極の不条理の側面を描き、避けられない人間の運命の中で助け合う人々の生き様を浮き彫りにした。かつて私の若き日に実存主義が時代を席巻した。フランツ・カフカの『変身』などと共に、カミユの『異邦人』や『シシュポスの神話』などを読んで、分かったようでいて、今一歩分からないような思いに駆られたものである。そんな中で、この『ペスト』には救いがあり一条の光があったと思われた。大型イベントや日常的会合が中止になったりして、出歩く機会が減る中で、家で読んで人生を考えるきっかけとなる絶好の本かもしれない▼国会で新型コロナウイルスへの政府の対応が後手後手に回っているとの批判がある。桜を見る会や東京高検検事長人事などを巡っての疑惑で窮地に追い込まれた安倍政権にとって、名誉挽回のチャンスとなるか、恥の上塗りになるかの瀬戸際である。中国で発生し、日本、韓国でも多くの人々に感染、欧州でもイタリアを中心に予断を許さない事態が続く。せめて、地球上に生息する人間が、国の違い、民族の違いを乗り越えて、生きるも死ぬも同じ運命共同体であることが共通の認識になり、争いごとがなくなる機縁になれば、と思うことしきりである。(2020-2-28)

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