「歴史認識」を考える最良のパートナーー大沼保昭『「歴史認識」とは何か』

2015年夏ー先の大戦が一応の終結を見たあの「8・15」から70年の歳月が経つ。私が70歳を迎える年でもある。安倍首相の「戦後70年談話」の文案をめぐって、あれこれと取りざたされる中、私も改めて「歴史認識」を考えるよう努めてきた。まず年初に出版された服部龍二『外交ドキュメント 歴史認識』を手にした。近頃、本の結論部分を先に読んで、その本の値打ちを図る癖がついていることもあって、終章の「歴史問題に出口はあるか」を真っ先に読んだ。「歴史認識をめぐる相剋と和解の模索は、政府間だけでなく、メディアや市民レベルでも続くだろう。真の和解には息の長い対話が各分野で求められる。粘り強い民間交流や、共同研究を通じた信頼構築も必要となろう」ー要するに、出口はあるのかないのか、「どないやねん」とつい言いたくなる。結論部分がこうだから、あとは推して知るべしとはいうまい。自分の理解力不足からか、なかなか没入できなかった。外交面に絞った「歴史認識」をめぐる記録としての資料的価値は大いに認めるものの、読み物としては、あまり面白いものとはいえない▼そんな折もおり、大沼保昭『「歴史認識」とは何か』が著者から送られてきた。かねて様々な機会に教えを乞う機会があった、私の尊敬する大沼東京大名誉教授のものとあって、これは貪り読んだ。もちろん、終章から。「歴史認識」問題は克服できるか、との見出しで始まるこの本の結論部分はなかなか読ませる。「非欧米諸国が経済力をつけ、国際的発言を高めていくなかで、これまで日本が中国や韓国から批判されてきたような構図が、こうした国々とかつての植民地支配国である欧米先進国との間でみられるようになるかもしれない」ー明治維新に端を発し、日清・日露の勝利から昭和の戦争の敗北へという、日本近代の負の側面を思うにつけ、このところの私は、先行してきた欧米文明を無批判に受け入れてきたことの過ちに、思いをいたすことが多い。勃興するアジア披植民地国によって、かつての欧米宗主国はやがて批判の矢面にたたざるをえなくなるかも、との大沼さんの予測は的中する可能性が高い。遅れてきた帝国主義国家日本が先に受けた”洗礼”は、先行く国家群も必ずたどらざるを得ない道として▼この本はジャーナリストの江川紹子さんの質問に大沼さんが答えるという形式をとっており、きわめて読みやすい。行動する学者として、様々な運動に携わってきた大沼さんは、溢れ出る感情を時に隠さず対象にぶつけてきたひとでもある。この本でも、そのあたりの人間・大沼保昭が随所に結構ドラマティックに顔を出し、引き込まれる。「東京裁判」をめぐる記述の中で、インドのパル判事の「日本無罪論」は誤りだとして、いわゆる「常識」的な見方を批判する一方、オランダのレーリンク判事の生き方を示唆に富むものとして,評価をしているところは興味深い。この冒頭部分で、著者は「現実の国際社会が単純明快に回答をだせるものではない」というある種”当たり前の見方”を提示している。一方、結論部分で「大部分の人間は俗人」「国家というのは『非道徳的な社会』(ラインホルト・ニーパー)ですから、人間よりももっと悪い行動を取る」「世界で生きていくうえで、わたしたちは『よりましな悪』を求め、それを積み重ねていくしかない」との含蓄ある見方を披歴している。わたし風に国際社会なるものを言い換えると、「やくざな国家群が乱れ生息している複雑きわまりない社会だ」ということになろうか。ともあれ、品行方正なる存在とは程遠い国家に、過度な期待を抱いてはならないといった見方がこの本の基底部をなしているように私には思われる▼様々な思いを抱かせられた本だが、元慰安婦とのやりとりを紹介した一行には思わず涙した。慰安所で重い病気にかかった時に、日本の軍医が一所懸命に治療をしてくれたというところだ。そのことを彼女は「大沼先生ね、わたしを地獄に連れてったのは日本人だった。でも地獄から救ってくれたのも、日本人だった」と語った、と。この言葉に日韓の関係のすべてが集約されているような気がしてならない。大沼さんと同様に、読んだものとしても忘れられない。「歴史認識」を今の時点で考えるうえで、この書物はとても得難い深い内容を含んでいる。多くの若い人たちに読むことを勧めたい。私は衆議院議員として6期20年努め、その大半を外交・安全保障の分野での議論に参画した。国際法学者としての大沼さんの論考をしばしば参考にさせてもらったものだ。しかし、「人権」をめぐる彼の闘いには、残念ながら殆ど”参戦”できなかった。何人かの他党の先輩議員の協力的活躍が紹介されているくだりを読むにつけ、”不戦敗”だった自分を恥じざるをえない。(2015・8・9)

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