Monthly Archives: 7月 2019

無実の選挙違反で逮捕された女流作家の叫びー柳谷郁子『風の紋章』を読む

今回の参議院選挙が始まったばかりの頃、姫路に住む作家の柳谷郁子さんとお会いする機会があった。彼女の著作はこれまで幾たびか取り上げてきた。評論家の森田実さんとのご縁を私が取り持ったこと。そこから新たな出版社との繋がりも出来ることになった。そんなこんなで親しさも増したが、彼女にとってとても大事な本である『風の紋章』は読まずにきた。無実の選挙違反で留置場に入ったとのテーマに、どうしても触手が動かなかったからである。それが変わったのは、ご本人からの「読んで欲しい」との改めての強い勧めが全てだった。喜寿をとっくに過ぎたご高齢にも関わらず、凛とした中に美しさを湛えた佇まい。その秘密を解く鍵がこの本の中に込められているのではないかと思い直し、頁を捲っていった▼1991年の統一地方選挙で、それまで姫路市議だった夫君が県議選に出馬し落選した。その直後に若い事務所員がアルバイト料の買収容疑で警察に逮捕された。およそ信じられない事態を前に、彼女は身代わりを申し出て、そのまま共に逮捕される。その事実を基に、釈放後一気に書き上げたという。サブタイトルは、「留置ナンバー・婦55」と生々しい。参議院選挙の最中でありながら、神戸までの車中といった細切れの時間を寄せ集めて一気に読んだ。罪深き警察の誤判断。巧言に隠れた選挙の裏面。立場が狂わせる人の振る舞い。作家、市議夫人として多くの人々の信頼を勝ち得ていた存在が、海岸の盛砂のように崩れゆく様がリアルに赤裸々に描かれる▼彼女のこの事態における行動を突き動かしたものはただ一つ。無実の罪を被せられた青年を救いたいとの一念だけ。それあるがゆえに身代わりを申し出た。ところが警察権力はそう甘くない。結局二人とも逃れられぬ身に。この辺りの狂おしいまでの筆致は読むものをして、奈落の底に突き落とすかのように切ない。取り調べにあたる刑事。留置場における看守。同じ場所に盗みの罪で入ってきた「ぞっとするほど綺麗」な少女とのやり取りなど一つひとつ深く心に残る。選挙という〝祭りごと〟の背後に、一皮めくると暗い別世界が潜むことを突きつけられる。しかし、それでいて人の世の情けというものの有難さも十二分に味わえる。とりわけ最終節の「天からの贈物」はもう涙無くして読めない。そして強く堅固な家族の絆にも▼実はこの時の兵庫県議選に私は出馬する予定だった。直前の衆議院選で次点落選し、県議選に鞍替えをする決意を固めていたのだ。だが、結局は衆院選に再挑戦することとなり、ギリギリで取りやめた。その後暫くして私は無事初当選した。〝苦節足掛け5年〟に翻弄されていた私には、柳谷さんの苦悩は戦場における〝遠い砲声〟のようにしか聞こえなかった。当時は未だ知己を得ていなかったこともあるが、申し訳ないしだいである。以来今日まで多くの政治家や関係者が様々な理由で獄に繋がれるケースを見てきた。最も印象に残っているのは、共に厚労省で働いた村木厚子さん(後に事務次官)の冤罪である。彼女とはひと夜じっくりと体験談を聞く機会があったが、やはり家族の有難さを命の底から語られた。どんなに辛くても夫や娘の励ましあったればこそ乗り切れた、と。獄中で塩野七生の『ローマ人の物語』全15巻を読みきったとの話と合わせて忘れがたい。中国の故事に「疾風に勁草を知る」とある。柳谷さんも、村木さんも、「怒髪天を衝く」思いを持ちつつ、共に見事に乗り越えられて今があることをしみじみと感じさせられる。(2019-7-25)

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山口代表の青春期に与えた親父さんの影響ー新田次郎『ある町の高い煙突』を読む

なぜ今この本なんだろうか。遥か昔の1968年に『週刊言論』ーこれがまた懐かしい。創価学会系の週刊誌ーに初めて書かれた。単行本が翌年に文藝春秋から刊行された企業公害にまつわる本である。そしてついこのほど50年ぶりに文庫(1978年刊)の新装版として出された。その上、映画化もされたというから凄い。新田次郎『ある町の高い煙突』を私が読もうと思ったきっかけは、なんと、山口那津男公明党代表のインタビュー記事(毎日新聞5月21日付け)を見たことによる。新田次郎氏と同じ気象庁勤めだった山口代表の親父さんが、新田氏に語った史実が小説誕生の発端だという▼筋立ては、明治から大正期にかけて茨城県日立市の煙害問題で、鉱山側と被害者の農民側が交渉した結果、156mもの超高層煙突を立てることで、公害被害を克服したというもの。加害者としての企業と被害者としての住民側が、力を合わせて問題解決に当たったところが他の公害のケースと全く違う。当初は対立していたが、やがて一体となって課題解決に当たるようになる。ここらあたりが今になって、脚光を浴びていることの背景にありそうだ。尤も、小説の運び方としては、新田次郎の他のものに比べて、いささか物足りない。男女の描き方の淡白さも、主人公の人間的掘り下げにも不満足感が残る▼じつは、先日参議院兵庫県選挙区の公明党・高橋光男候補の選挙事務所に山口代表が立ち寄られた。束の間、応接コーナーで事務長を務める私と、二人だけの会話をした。「遥か以前に話題になった本がなぜ今また?」「SDGsの影響ですね」「はあ」ー日本だけの枠組みではなく世界的な観点から見て、持続可能な社会を目指すということだろうかー「中国を始めこれから世界で公害問題が先鋭になってくるのでね」「なるほど」「父が着眼したことが今に蘇ってきて、感慨深いですよ」「私はまた原発事故との絡みかと」「それもあるでしょうけどね」ー先の毎日新聞の記事によると、山口氏は、課題にぶつかった時の当事者のありかたとして、「粘り強い対話」や「課題を直視していかに克服するかという高い志」、そして「互いに協調して課題を乗り越えていく姿勢」といったことを学んだと語っている。対立、対抗、分断でなく、対話によって協調して課題を解決することを、高校生の時に父から叩き込まれたような気がする、とも述懐しているが、やはり「栴檀は双葉より芳し」といったところか▼山口代表とは長い付き合いだが、こうしたことは初耳だ。公害問題追及から政党間の合意形成まで、戦後政治史における先駆的役割を果たしてきた公明党。その中興の祖とでも云える山口代表の精神形成に預かって大きな力があったと思えるのが、父上の見聞録だったとは。このお話の主人公関根三郎と山口那津男がわたしには重なって見えてくる。今から46年前に池田先生が結成された「中野兄弟会」。千人を超える当時の創価学会中野区男子部の仲間たち。その中から5人の国会議員が誕生した。山口那津男、漆原良夫、魚住裕一郎、益田洋介(故人)、そして私。私を除く4人はいずれも弁護士経験者。今回、魚住氏の引退で、もはや現役政治家は山口氏だけになってしまった。政治家の資質が問われる中で、同氏は一段と重要な存在になってきている。これからもっともっと政治周辺のことやら、公明党の歩むべき路線についても語って欲しい気がする。(2019-7-13)

 

 

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日本の未来を変える力ーしもの六太『君のために走り続けたい』を読む

ユニークな体育の先生が参議院福岡選挙区の公明党の候補として出ると聞いて深い興味を持った。そして当のご本人が書いた本を読んだ。しもの六太『君のために走り続けたい』である。サブタイトルは、「国は人がつくる   人は教育がつくる」。帯には「世界一受けたい教育を、この国に!」とある。読ませるに十分なキャッチコピーが並ぶ。おまけに、表紙扉を開くと、新しーもの  たくましーもの  素晴らしーもの しもの六太 と「君のために走り続けたい」との「しもの六太ソング」の歌詞が続く。ユニークな人の魅力溢れるユニークな本である▼地元福岡の新聞やテレビで紹介された「しもの式体育」の真骨頂とは何か。先生が頂点にいて生徒たちに命令を下すとの上意下達方式でなく、ひとりの生徒も置き去りにしないように、目配り気働きを貫くところにポイントがある。しかも、「出来る」生徒が「出来ない」生徒の横についてアシストするという仕組みだ。名付けてスモール・ティーチャー=ST。これって聞くと、なるほどと思うものの実際にはそう簡単ではないはず。先生と生徒の絆が相当に強くないととてもうまく行かぬだろう。現場を見たいとの欲求が募る。水泳の授業でクロールを全員がマスターするまでの経緯など、読み終えて心から賞賛したい気持ちになる▼「いじめ」から「不登校」そして「引きこもり」といった昨今の教育現場で起こっている非常事態についても、しもの先生の一人も置き去りにしないとの執念と行動力には頭が下がる。「ヒューマン」という生徒相互の「日常の思い」の記録を発行したり、不登校の生徒をランドクルーザーに乗せて遊びに誘ったり、生徒たちとのキャンプを独自に企画するなど、実に多彩な試みを繰り出す。それもこれも子供たちの心のひだに分け入る行為に違いない。ハードルを前に「どこをどうしたらうまく跳べるようになるんか。全然わからん」との子供の正直な言葉を聞いて、しものさんは「だれにでも実践できる体育」を研究し始めた。この辺り、鉄棒も跳び箱も、勿論水泳のクロールもろくすっぽ出来ずに学校を卒業した私など、生まれ変わってしもの先生に教えて貰いたいような気持ちになる。高額の視聴覚機器を私財を投げ打って購入し、「実験証明」してみせたというのだが、何でも公的補助金に頼りたがるどこかの誰かに見習わせたい▼こうした体育の先生・しもの六太という人物はどんな環境で育ったのだろうか。第1章「たくましき庶民の誇り」と第3章「夢は必ず叶う」は、テレビドラマにしても必ず高視聴率を得るに違いないと思わせるような、人情味溢れる家族のありようが描かれている。実に面白い。一方、最終章の「未来への扉」では「世界一受けたい教育をこの国に」というキャッチコピーのもとに❶一人も置き去りにしない❷家庭における教育費負担を軽減❸子どもの命を守るーといったビジョンが示される。教育現場での実績を基にしたものだけに迫力がある。巻末には、鉄棒、マットの授業風景がタレント林家まる子さんとひとり娘のこっちゃんとの写真で紹介されていて分かりやすい。逆上がりが出来ず悩んでる我が孫に見せたい。そして〝夜回り先生〟の水谷修さんとの教育対談も。「日本の未来を変えるのは体育教育だ」との二人の合意が力強く伝わってくる。これまで「教育立国」なる言葉を口にし、また人からも数多聞いてきた。だが所詮は空理空論の域を出ないものが多い。それがこの本を読むと、あるべき「教育」の姿がくっきりと浮かび上がってきたとの実感を持つ。見かけは薄いが、実に厚い中身を持った本に出会って大いに満足している。こんな政治家が活躍する日が待ち遠しい。(2019-7-6)

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