ユニークな体育の先生が参議院福岡選挙区の公明党の候補として出ると聞いて深い興味を持った。そして当のご本人が書いた本を読んだ。しもの六太『君のために走り続けたい』である。サブタイトルは、「国は人がつくる 人は教育がつくる」。帯には「世界一受けたい教育を、この国に!」とある。読ませるに十分なキャッチコピーが並ぶ。おまけに、表紙扉を開くと、新しーもの たくましーもの 素晴らしーもの しもの六太 と「君のために走り続けたい」との「しもの六太ソング」の歌詞が続く。ユニークな人の魅力溢れるユニークな本である▼地元福岡の新聞やテレビで紹介された「しもの式体育」の真骨頂とは何か。先生が頂点にいて生徒たちに命令を下すとの上意下達方式でなく、ひとりの生徒も置き去りにしないように、目配り気働きを貫くところにポイントがある。しかも、「出来る」生徒が「出来ない」生徒の横についてアシストするという仕組みだ。名付けてスモール・ティーチャー=ST。これって聞くと、なるほどと思うものの実際にはそう簡単ではないはず。先生と生徒の絆が相当に強くないととてもうまく行かぬだろう。現場を見たいとの欲求が募る。水泳の授業でクロールを全員がマスターするまでの経緯など、読み終えて心から賞賛したい気持ちになる▼「いじめ」から「不登校」そして「引きこもり」といった昨今の教育現場で起こっている非常事態についても、しもの先生の一人も置き去りにしないとの執念と行動力には頭が下がる。「ヒューマン」という生徒相互の「日常の思い」の記録を発行したり、不登校の生徒をランドクルーザーに乗せて遊びに誘ったり、生徒たちとのキャンプを独自に企画するなど、実に多彩な試みを繰り出す。それもこれも子供たちの心のひだに分け入る行為に違いない。ハードルを前に「どこをどうしたらうまく跳べるようになるんか。全然わからん」との子供の正直な言葉を聞いて、しものさんは「だれにでも実践できる体育」を研究し始めた。この辺り、鉄棒も跳び箱も、勿論水泳のクロールもろくすっぽ出来ずに学校を卒業した私など、生まれ変わってしもの先生に教えて貰いたいような気持ちになる。高額の視聴覚機器を私財を投げ打って購入し、「実験証明」してみせたというのだが、何でも公的補助金に頼りたがるどこかの誰かに見習わせたい▼こうした体育の先生・しもの六太という人物はどんな環境で育ったのだろうか。第1章「たくましき庶民の誇り」と第3章「夢は必ず叶う」は、テレビドラマにしても必ず高視聴率を得るに違いないと思わせるような、人情味溢れる家族のありようが描かれている。実に面白い。一方、最終章の「未来への扉」では「世界一受けたい教育をこの国に」というキャッチコピーのもとに❶一人も置き去りにしない❷家庭における教育費負担を軽減❸子どもの命を守るーといったビジョンが示される。教育現場での実績を基にしたものだけに迫力がある。巻末には、鉄棒、マットの授業風景がタレント林家まる子さんとひとり娘のこっちゃんとの写真で紹介されていて分かりやすい。逆上がりが出来ず悩んでる我が孫に見せたい。そして〝夜回り先生〟の水谷修さんとの教育対談も。「日本の未来を変えるのは体育教育だ」との二人の合意が力強く伝わってくる。これまで「教育立国」なる言葉を口にし、また人からも数多聞いてきた。だが所詮は空理空論の域を出ないものが多い。それがこの本を読むと、あるべき「教育」の姿がくっきりと浮かび上がってきたとの実感を持つ。見かけは薄いが、実に厚い中身を持った本に出会って大いに満足している。こんな政治家が活躍する日が待ち遠しい。(2019-7-6)