私には北朝鮮や韓国の専門家が友人に多い。小此木政夫、古田博司の二人が双璧だが、他にも伊豆見元、重村智計氏らがいる。私が現役時代にこの4人は一度は公明党の外交安全保障部会の場に呼んで、講演をしてもらったものだ。前二者はこれまで幾度か取り上げてきたが、後者の二人はほとんどない。このうち伊豆見さんと知り合ったのは1980年代後半、故中嶋嶺雄先生(元東京外大学長、前秋田国際教養大学長)のアジア・オープンフォーラムの会議やら、台湾への旅で、だ。また、重村さんとは、米国への視察旅行先のワシントンのホテルで偶然に出会い知りあった。彼が毎日新聞記者をされていたころだ。もう20年近く前のことになる▼ネットで見ると、重村氏は伊豆見さんのことを厳しく非難しているようだ。その著作で、学歴詐称の疑いがある、と。名指しは勿論避けているが、明らかに彼のことだとわかる書きぶりだ。両方を知っている身からすると辛いし、あまり関わりたくない話ではある。他にも島田洋一氏(福井大教授)がそのブログで叩いているから、伊豆見氏はなにかと標的にされやすいのであろう。いくつか理由があろうが、最大のものはテレビや新聞メディアにしばしば北朝鮮ウオッチャーとして登場する割には、ご自身の手になる著作がない(訳本や共著はある)ことが原因ではないかと思われる。学者という存在は相互に喧嘩が絶えないようで、陰口を耳にするには事欠かない▼その彼が昨夏に出版したのが『北朝鮮で何が起きているのか ー金正恩体制の実相』で、つい最近まで知らずにいたが、偶然に本屋で発見した。朝鮮半島、とりわけ北朝鮮については情報も限られており謎がまだまだ多い。ゆえに、それを書物という形でまとめることは危険が多かろう。得体のしれないものに一定の見方を提示することは相当に勇気がいるからだ。この本では、①2012年4月以降の挑発の実相②金正恩体制の構造と政策課題③北朝鮮はどこに向かうのかーの三章に分けて解説をしている。究極のポイントは「金正恩指導部の三つの課題と三つの条件」である。国民生活の向上、対南関係の安定化と対米・対日関係の正常化という課題に対して、一定の成果をあげるには①非核化②弾道ミサイルの放棄③韓国に対する挑発行為の停止という三条件を満たさなければならない。しかし、これは国際社会にとって必須の前提条件だが、北朝鮮にとっては到底受け入れられない。結論は「時間だけがむなしく過ぎていく可能性が高い」ということになる▼これから日本はどうすべきかについて、伊豆見さんは、日本は今後も北朝鮮との国交正常化を目指していく必要がある、としたうえで、「北朝鮮を『国際社会の責任ある一員』とするべく」、「『生まれ変わらせる』べく努力を続けていかねばならない」と結んでいる。確かにそうなのだが、この「べき」論はそう簡単ではない。アメリカとキューバの国交正常化という新事態を横目で睨みながら、いよいよ地上最後の関係正常化を必要とする標的に「北朝鮮」がなったことに緊張を覚える。伊豆見さんの本の顔写真を見ながら、彼を傲岸不遜な男だという指摘(ネットで見た)は的外れで、わたしからすれば「程のいいひとなのになあ」と同情の思いは禁じ得ない。ま、出る杭は打たれるのか、とここでも平凡な感想を抱くに至った。(2014・12・23)