世界の最先端を切って急速に進む日本の人口減少。これからの社会構造が劇的な変化を強いられることは必至だ。こうした起こり得る未来にどう対処するか。編集者の依頼を受けた思想家の内田樹さんが10数人の論者たちに寄稿文を依頼して、出来上がった本が『人口減少社会の未来学』である。答えたひとは10人。それぞれに強いインパクトを持った中身で、極めて面白い論考集となっている。もちろんくだらないと思われるものもある。しかし、概ね目から鱗の秀逸なものが多かった。私の選んだベスト3(❶注目される中身❷平凡な結論だが無視できないもの❸日本には馴染まぬ奇抜な提案)を挙げ、明日の日本を考えるよすがとしたい■まず、その前に、内田氏の序論について。雇用環境の劇的な変化による破局的事態を回避するための手立てを考えており、興味深い。就職先をどうする、との若者たちの関心事について、銀行、新聞、テレビなどこれまで人気のあった業種は雇用消失リスクが高いとする一方、「看護介護という対人サービスを含む『高齢者ビジネス』」が活気づくという見通しを提起している。結論として、最後に生き残るシステムとは、「人間がそこにいて『生気』を備給しているシステム」だ、と。こう抽出してみると、意外に内田氏らしからぬ平凡な感じが否めない。本題に入る。最も刺激を受けたのは、劇作家・平田オリザ氏の「若い女性に好まれない自治体は滅びる」である。失業者や生活保護世帯が平日の昼間に映画館や劇場に来たら、「社会に繋がってくれてありがとう」と皆がいえる社会にしていくとの考え方の転換を強調している。つまり、「文化による社会包摂」のすすめである。これには斬新な響きを受けた。岡山県奈義町の子育て支援、兵庫県豊岡市の文化政策の展開には大いに惹きつけられた■次に経済学者の井上智洋氏の「頭脳資本主義の到来」。科学技術の研究という最も付加価値を生むクリエイティブな営みに、今の日本は時間もお金も費やさなくなっている、と強調する。科学技術立国としてやっていけるかどうかの瀬戸際に立たされているとの指摘は、改めて衝撃を受ける。無価値な労働に時間を費やす例として、中学校での教員の部活動と書類作成の激増、大学における研究時間の激減(その一方での教育準備の時間増)を具体的に挙げているのは分かりやすい。AIが進歩し普及すればするほど、知力を重視する必要があるが、あらゆる場面でそうなっていないとの指摘である。これは、珍しいものでは全くないが、無視できない重みを感じてしまう■最後に、文筆家の平川克美氏の「人口減少がもたらすモラル大転換の時代」。晩婚化の流れを早婚化に戻すことが難しいのなら、少子化対策として可能な政策は「結婚していなくとも子どもが産める環境を作り出すこと以外にはない」と断定している。フランスやスウエーデンで、法律婚で生まれた子どもでなくとも、同等の法的保護や社会的信用が与えられることを挙げ、日本での子育て支援や育児給付金などの対症療法的な対策では人口減少に歯止めはかからない、と強調。「社会構造(家族構成)や、それを支えているモラルの変更こそが、その鍵になる」という。「人口減少社会における社会デザインとは、無縁の世界に有縁の場を設営してゆくこと以外にはない。(中略) 都市部の中に、家族に変わり得る共生のための場所を作り出していくこと。そして人類史的な相互扶助のモラルを再構築してゆくこと」だ、と。これって、まるでSFのごとく聞こえる。儒教的社会にどっぷり浸かった日本人としては、いかにも荒唐無稽な提案に見ええてしまうのではないか。(2018-7-27)