駆けつけ警護が可能になって喜ぶ人を想う (38)

今回の集団的自衛権行使容認の閣議決定を一番喜んでいるのは、間違いなく岡崎久彦氏だと思われる。元外務省情報局長でありサウジアラビアやタイ駐日大使などを歴任した人物だ。早速、産経『正論』に「苦節35年、集団的自衛権の時きた」(7・2附け)と書いている。ここ数年は、様々な外交防衛に関する論考の結論部分において、判で押したごとく集団的自衛権の行使容認を説いて飽くことがなかったといって過言ではない。この論考では、彼自身が防衛庁に勤務していた1980年ごろの東京湾からペルシャ湾までのオイルルート防衛の実態を振り返り、米軍の不平、不満を代弁している。海上自衛隊がパトロールに参加できず、しかも「日本の船は守れても、米国の船やアジア諸国の船は守れない」のは、当時の憲法解釈のなせる業だった、と▲岡崎久彦氏には『百年の遺産』を始め膨大な著作があり、何れも読み応え十分だが、安倍晋三氏との間に『この国を守る決意』なる対談本がある。2004年1月発刊だから、10年前のもので、一回目の総理就任前だ。これを読むと明らかに岡崎氏の”指南番ぶり”が明々白々である。美しい師弟関係が読み取れるとともに、安倍氏への期待感が全編漲っていることがくみ取れ、羨望さえ禁じえないほどだ▲実は、この両氏とともに、私は数年間外交防衛の専門家を中心とする『新学而会』なる勉強会に参加していた。ほぼ毎回、元蔵相・塩川正十郎氏や今を時めく伊吹文明衆議院議長ら自民党政治家も一緒だ。私の学問上の師であった故中嶋嶺雄先生(元秋田国際教養大学学長)肝いりのもので、知的刺戟溢れる機会であった。その場で、「PKO(国連平和維持活動)の現場にあって、襲われた外国の要員を、日本の自衛隊員が駆けつけて警護さえ出来ないのは何とかならないのか。今のままでは世界に顔向けできない」と切望された。公明党がこの問題について固い態度を堅持していることを見越しての私への苦情だった▲今回の自公協議では、国家やそれに準ずるものが背後にいなければ、との条件付きで駆けつけての警護が可能になった。当然だろう。これを国家の主権の発動とみて、「集団的自衛権」行使として、憲法9条が禁ずるものとしてきたのはいささか”場違い”だったからである。このことをようやく、今は亡き中嶋先生の墓前に報告できることは私とて嬉しい。これも、憲法9条の枠の中で、出来ることと出来ないことを執拗に仕分けすることを求めた成果に違いない。(2014・7・3)

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