「テロとの戦い」で幕を開けた21世紀もほぼ20年。米中全面対決の様相を背景にした新たな時代の到来だ。それを読み解く格好の対談を読んだ。筑波大教授の古田博司さんと、ハーバード大学の国際問題研究所の藤井厳喜研究員との対談本『韓国・北朝鮮の悲劇』である。知的刺激満載の実に面白い本で、確かに「スリリングでエキサイティングな知的冒険」(藤井)といえる▼「朝鮮半島」に関して、北も南も「古代脳」とこき下ろす古田氏と、「『ずる賢い』と考えて警戒しないと(中略)、足をすくわれる」との立場の藤井氏。古田氏はいつものように過激だ。先の米朝首脳会談で「金正恩が頑張った」とする小此木政夫慶大名誉教授を「弱小国が強大国を凌駕することなんて絶対にない。そういうこともよく分かっていない」と批難の刃を内にも向ける。これに対して、「予定調和」を前提に「均衡点を目指す」理想主義的な外交交渉であってはならない、との立場で、藤井氏も古田氏に同調している▼これからの世界の動向で、最も関心を呼ぶのは米中関係だが、「南シナ海紛争で米中が軍事衝突をし、チャイナが負ける」という藤井氏は「経済的窮乏、軍事的敗北という内憂外患で体制が持たなくなり、中共体制はそこで潰れる」と見る。一方、古田氏は「崩壊というより、たぶん中華民国時代の感じに戻る」とし、「地方政権がいくつか割拠する」と言う。この辺りは希望的観測が強いのだろうが、かつて中嶋嶺雄先生もやがては中国は7つぐらいの連邦国家になると見通されていた。経緯はともあれ、いくつくところはほぼ同じといえようか▼近代をめぐる議論も面白い。藤井氏がヨーロッパを見ると「前近代の闇に飲み込まれて行くのではないかとの恐怖感がある」と心情を吐露すると、古田氏は得たりとばかりに「近代化に失敗した国はほとんど全部が古代化」するし、「中国人は古代頭のまま」と応じる。曲がりなりにも近代になった日本にとって、真横に存在する「近代外」の国家群はいかにも悩ましい存在である。「米ソ対決の恐怖」から半世紀。「FEAR(恐怖の男)」(ボブ・ウッドワード)と「古代頭」との対決を軸に、世界は再び「大国間確執の時代」(藤井)に戻りつつある。(2019-1-25)