前防衛大学校長の意味深長な評価ー五百旗頭『日本の近代6 戦争・占領・講和』を読む (40)

 今回の集団的自衛権問題をめぐる閣議決定について、これで「戦争に巻き込まれてしまう」とか、これで「平和を保つことが出来る」という賛否両論の立場からの議論がある。これはどちらもかなりいかがわしい。安倍首相言うところの抑止力が破たんすれば、自ずと戦争になるのは当然だろう。従来なら同盟国・日本として、米国に対して何も出来なかったのが、これで出来るようになったということだ。それを恐れてどこかの国が先制攻撃をしてこなければ、今まで通り平和は保てるが、それでもなお、その国が仕掛けてくればそれが不可能になってしまうと言うに過ぎない。前の防衛大学校長で神戸大学名誉教授の五百旗頭真さんが意味深長なことを公明新聞のインタビューで答えている。「事実上、憲法を変えられないなら、国にとって必要な場合、通常の法手続きで変えていかざるを得ない。というより、それは国権の最高機関が担うべき当然の仕事のはずだ」し、「憲法を抱いて死ぬ選択を国は行ってはならない」と。「解釈改憲」であるとして、必要以上に批判する態度を、批判している。今回のことがなければ、座して死を待つことになりかねなかったと述べているわけだ。私は、今回のことを「解釈改憲」だとは思わないが、紙一重だと思っているだけに、この五百旗頭さんの指摘は傾聴に値する▲五百旗頭さんの『日本の近代6 戦争・占領・講和』は、市川雄一さんに勧められて出版直後の13年ほど前に読んだ。末尾の7行が忘れられない。長いが引用する。「(戦後に)サンフランシスコ体制に守られて、経済発展と利益配分の小政治に没頭し続けるうちに、大局観に立った国家的自己決定能力を見失った感がある。経済大国にはなったが、尾根筋に立った者に求められる大局的展望能力と、それに基づいて決断する者に漂う風格が失われた。他国民と世界の運命に共感をもって自己決定する大政治の能力を今後の日本は求められよう。なぜなら、真珠湾から五五年体制までの歴史のように、全面的自己破滅を再生するという型を、もう一度繰り返す自由を、われわれは与えられていないからである」ーーこの記述を銘記せよと、大先輩から聞かされた。今回の自公協議の決断も、そうしたことに繋がれば、戦後安全保障の歴史に大いなる転機を作ったことになるはずである▲この本を今読み返す中で、新たな気づきがあった。1947年(昭和22年)4月25日の総選挙の結果、社会党が第一党に躍り出て、自由、民主の保守二党がそれに続き、国民協同党と共に、四党連立政権の誕生であった。片山哲内閣の誕生である。この内閣を従来、社会党中心ゆえに左翼内閣と見る傾向が私にはあったが、それは正確さを欠く。いわば、のちの自社さ政権の先駆だったかもしれない。いや、それも違うかも。五百旗頭さんは、当時のマッカーサーが声明で「日本国民は、共産主義的指導を断固として排し、圧倒的に中庸の道、‥‥極右、極左からの中道の道を選んだのである」と意義づけたことを紹介している。更に、「共産党の急進主義がマッカーサーの弾圧にあうと、人々はそれではないが、保守の旧政治でもない、穏健な革新政治の可能性をたずねたのである」と述べている。こう見ると、「中道政権へ」との見出しは編集部の勇み足であろう。「穏健な革新政治へ」が望ましいと、真正中道主義者の私には思える▲五百旗頭さんは、兵庫県の私学の名門・六甲高校出身だ。この学校の生徒は、いつもふろしきを抱え、電車内で断じて座らないという校風を持つ(今は見られないので、持っていたというべきか)。なんだか防衛大学校と相通じるものがありはしないか。その校長の職務を終えられたあと、「東日本大震災復興構想会議」の議長を務められ、多大な手腕を発揮されたことは周知の通りである。私は様々な機会にお逢いし、教えを乞うたことがある。日本政治外交史、日米関係論の先達を前に、いつも小政治のプレイヤーの端くれの一人として、肩身の狭い思いを禁じ得なかった。今回のことを契機に、少しは日本の政治に胸を張れるようにしていきたい。(2014・7・12)

【五百旗頭真さんは、PKO法審議の頃に市川雄一さんがしばしば党に招いていただき、講義をいただきました。物腰柔らかな本当に柔和な方でした。私と年齢は3つほどしか違いませんが、とてもそうは見えず、いつも貫禄に圧倒されたものです。

放送大学の講座で、五百旗頭薫さんの講義を聴いたことがあります。日本政治外交史です。真さんの息子さんと知りました。五百旗頭家は、学者一族で、ずらり学者の皆さんがその親族におられます。親父さんのことを思い起こしながらテレビの向こうに立つ薫さんを見ていました。(2022-5-14)】

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