じっとこちらを見つめるまなざしが異様だった。恐らく15年以上ほど前のことだが、国会の会合で見かけて、未だに強い印象で残っているひとを、私はこの人をおいて知らない。佐藤優ー元外務省主任分析官で、今を時めく大作家だが、当時は違った。公明党の外交安全保障部会に来た説明要員の一人として、前席に坐るのではなく、後裔で壁を背にして私の真正面に坐っていた。およそ感情らしきものはその大きな瞳からは感じられなかった。ゆえに、なんだか妙な違和感がずーっと残っていた▲後に(2002年5月)、鈴木宗男事件に絡む背任容疑で逮捕され、同年7月に偽計業務妨害容疑で再逮捕され、512日間拘留されたひとである。『国家の罠』を2005年に出版して以後の、この10年の凄いしごとぶりは、まさに八面六臂を越える。彼の書いた本は正直言って読む方が追いつかない。私は最初の頃は殆ど全て読み漁り続けたが、もう追いつかない。とりわけキリスト教神学にまつわる専門的著作は手におえず、読書レースから脱落してしまった▲その彼が総合雑誌『潮』誌上に、池田SGI会長と歴史学者A・J・トインビー氏との対談を読み解く連載をし、それが『地球時代の哲学』としてまとめられた。当初は引用部分が多すぎないかとの思いを禁じ得なかったが、読み進むうちにすっ飛んだ。池田先生をまっとうに理解する本物の知識人が登場した、との思いを心底から持つ。現役時代を通じて、私が付き合った外務官僚で、彼を評価するひとを寡聞ながら知らなかった。外務省への徹底した批判の刃がもたらしたものだろう。せいぜい記憶力が凄いね、というくらいで、後は無視するのが精いっぱいという人が大半だった。さてその後の彼を見聞し、引き続きそういう態度を取るのかどうか、一人ひとりに聞いてみたいものだ▲今回の集団的自衛権問題にまつわる論評でも彼のそれは、明解そのものだ。「公明党の圧勝」で、「公明党が連立与党に加わっていなかったならば、直ぐにでも戦争ができる閣議決定、体制になっていたのではないか」といった位置づけは、まさに公明党の支持者にとって胸すく思いになろう。これまで佐藤優の存在を知らなかった人々にとって、ちょっと古い譬えだが、天から降り来ったスーパーマンか月光仮面のように思われるのではないか。「これでは米国の期待に応えられないのではないか」とみる外務省関係者やOBの声を取り上げ、低評価の背景を明らかにしている。今思うことはただ一つ、佐藤さんをして贔屓の引き倒しにさせないようにせねば、と。(2014・7・15)