一日に五回笑って、五回感動すれば元気で長生きできるーこれは笑医塾塾長の高柳和江(元日本医大准教授,医学博士)さんの掲げる指針である。先日も明石市の生涯教育リーダーたちを前に一時間半の講演を聴いたが、いやはやいっぱい笑わせて頂いた。彼女は私の高校同期(これをいうと、歳が分かるからといって秘密なのだが)でもあり、親しい間柄なので、この講演の講師として招くきっかけを作らせて頂いた。何回も講演は聴いているが、あらためて実に旨い、と思った。さすがに世界の講演上手なスピーカー2000人の一人に選ばれているだけのことはある。スライドを使って見事なまでの話しっぷりは、毎回データを入れ替えて工夫をしているだけに、新鮮かつ信ぴょう性も高いと思われる(ただし、彼女が触っただけでリウマチで両手の指が曲がっていたのが治ったというのは、写真を見たものの、いささか信じがたい)▼その彼女と久しぶりに終了後昼食を共にした際に、塩野七生さんの文藝春秋10月号の巻頭エッセイを話題にした。『日本人へ137 この夏を忘れさせてくれた一冊の本』というものだが、塩野さんはこの中でコリン・ジョイス『「ニッポン社会」入門』を抱腹(絶倒)ものだと絶賛している。「歌舞伎は歌舞伎町ではやっていない」「作家とサッカーの違いは大きい」「電話を切るとき思わずお辞儀をしてしまう」などなど、「日本で暮らす時にこれだけは覚えておこう」という部分を読むだけでも笑ってしまう、とあれこれ実例を上げている。そして「私だったらこの一冊を、新内閣の大臣たち9から企業の首脳陣、そして新入社員に至るまでの、秋に入っての必読書に推すだろう」とまで言い切っている。尊敬するこの日本を代表する女流作家にこうまで勧められたら読まずにはおれない。早速アマゾンで購入して読んだ▼たまたま笑いがテーマだから、ここは笑医の第一人者である高柳女史に訊いてみた。「文春の塩野さんのエッセイ読んだ?俺、買って読んだけど全く面白くないんだけど」と。彼女からは直ちに「あれ、私も読んだよ。だけどそう、殆ど面白くない。笑うところなんかなかった」との答えが返ってきた。あまりの一致にここは二人して笑った。彼女は「塩野さんはやっぱりもう外人なんだね。感性が。私たち日本人としてはあんまり笑うところはない」とダメ押し。国会の質問に際しても必ず冒頭にはユーモアを交えることを忘れなかった私としては、塩野さんのいう”ユーモアを解さぬ政治家”とは言われたくない思いが人一倍強かった。ところが、そのわが感性も鈍ったのか、と心配したが、高柳さんと同じと知って杞憂に終わった▼ジョイスさんは確かに非常なる勉強家で、ニッポン社会をくまなく調べ上げている。改めてニッポン社会とは何かを知る上で、為になること請け合いである。つまり笑う本,笑える本ではなく、真面目に考えさせる本ではないか。塩野さんのエッセイを読まずに読んだら笑えたかもしれない。要するに、抱腹するっていわれると、じゃあ抱腹させてくれと、開き直るのが私たちの常であり,そうなると意外と笑えないものだ。ところで、高柳さんは「私,あの本,本屋で立ち読みしただけ、良かった、買わなくて」ときた。立ち読みどころか、中身を知らず、塩野七生流お勧め文だけで、買ってしまった俺って馬鹿だなあ、と笑ってしまった。(2014・9・23)