先週取り上げた『地方消滅』での増田寛也さんの問題提起を受けて、私たちが考えねばならない政策に関する本をたて続けに読んだので、順次紹介したい。まずはあの本のなかでも対談相手として登場していた藻谷浩介さんの『デフレの正体』。藻谷さんとは五年ほど前にお会いした。この本が出版された頃だ。公明党の政務調査会に講演者として来てもらった。いらい注目している人だが、益々その論調の鋭さとわかりやすさに磨きがかかっている(最も面白かったのは『里山資本主義』でこれはすでに紹介済み)。日本経済の最大の癌ともいえる、生産年齢人口減少問題にどう立ち向かうかについて、①生産性を上げて、経済成長率を向上させよ②景気対策としての公共工事の増加を図れ③インフレ誘導すべき④エコ対応の技術開発でモノづくりのトップランナーとしての地位を守れーなどという主張が巷に満ち溢れているが、これには実効性が欠けるというのが彼の基本的立場だ。確かにこうした主張は俗耳に入りやすい▼しかし、藻谷氏はそうした主張を退けて、少し角度が違った観点から目指すべき目標を設定する。それは①生産年齢人口の減るペースを少しでも弱める②生産年齢人口に該当する世代の個人所得の総額を維持し増やす③個人消費の総額を維持し増やすの三つだ。いずれもそう難しいことではなく、文字通り生産年齢人口減に真正面から対処するために必要な手立てだと思われる。そしてそれを実現するために、誰が何をすればいいのかを具体的に三つ挙げた。一つは、高齢富裕層から若い世代への所得移転の促進。第二が女性就労の促進と女性経営者の増加。第三に、訪日外国人観光客・定期定住客の増加。これらは単的にいえば、若者、女性、外国人対策。この三ついずれもある意味で分かっているけど手がつけられてこなかったものばかりだ▼彼は、若い世代の所得を頭数の減少に応じて上げる「所得一・四倍増政策」や団塊世代の退職で浮く人件費を若者の給料に回そうなどといった具体的提案を並べる。さらに、若者の所得増加推進は、「エコ」への配慮と同じだとか、生前贈与促進で高齢富裕層から若い世代への所得移転を実現しようなどとの一味違う提案もなされる。女性についての問題点は、「女性を経営側に入れて女性市場を開拓する」という可能性をほとんどの企業が追求していないことに尽きるという。確かにそうだ。それより、もっと基本的なところで女性への偏見が消えていない。それは「女が今以上に働くとさらに子どもの数が減るのではないか」との思い込みだ。藻谷さんは、それを「若い女性の就労率が高い県ほど出生率も高い」として否定する。外国人対策については、公的支出の費用対効果が極めて高い外国人観光客の誘致を推奨している。これは現在瀬戸内海に外国人観光客を誘致しようとの取り組みを仕事として進めようとしている私としては大いに賛同したい。こう見てくると、藻谷さんの主張は「男中心の年功序列の日本人社会」が根本的に見直しを迫られているというものだとわかる。この5年の間にかなりこうした提案は取り入れられては来ているが、さらなる徹底が望まれよう▼この本のサブタイトルは、経済は「人口の波」で動くというもの。『地方消滅』での対談で、増田氏が「海外では人口問題に対する危機意識が高いですよね。政治家を含め、人口論をきちんと勉強している」と述べると、藻谷氏は「マクロ経済学は基本的に率ではなく絶対数だというのが、日本を除く世界の常識です」と応じている。さらに、地方人口の減少について、「今よりはるかに縮小はするけど、ゼロにはしない」との地方人口の「防衛・反転線」の構築を求めているのはきわめて現実的な提案といえよう。具体的に自分の住む町をどう住みよい町にするかを一人ひとりが考えていくことが大事だ。この四月に行われる地方統一選挙をきっかけにわが町をどうしたいのか、候補者の主張にしっかり耳を傾けるとともに、自分たちも考えていきたい。(2015・2・21)
【藻谷浩介氏のものは、『世界まちかど政治学』が面白かったです。副題に「世界90ヵ国弾丸旅行記」とあるように、一泊しただけの国でも、弾丸のように素早く動いて、行った先の現場で考えた行動記録です。綾なす歴史と入り乱れる地理を背景に、あたかも名料理人が素早く作ってくれた手料理のように、美味しく味わえたことに感動しました。
中でもドイツの北方領土と呼ばれるカリーニングラードについての記述には唸りました。旧ソ連が第二次大戦でドイツから戦利品として奪い取ったバルト海の港町ですが、かつてはプロイセン王国建国の地・ケーネスヒブルグ。今はロシアの飛び地として、EUに囲まれて孤立しています。カントゆかりの地としても知られていますが、実に興味深く読めました。国会の勉強会でお会いしていらい、注目している人です。(2022-5-20)】