【25】全てがすっ飛んでしまったー北海道新聞社編『消えた四島返還ー安倍政権日ロ交渉2800日を追う』を読む/3-9

 今からほぼ3週間前の2月16日のこと。北海道新聞の斎川誠太郎東京編集局長が神戸にやってきた。私にインタビュー取材をするためである。20年ほど前に公明党番記者をしていた彼とは親しい仲だった。そのこともあり、依頼に二つ返事でオッケーしたのは2月の初めだった。読売新聞に私の著書のことが報道された直後。電話の向こうの彼は「読売さんに先を越された」とちょっぴり残念そうに呟いていた。取材を受ける前に彼が鞄からおもむろに取り出したのが一冊の本。ブルーの色鮮やかな表紙に、プーチンロシア大統領と安倍元首相が向き合った写真の背景はイエロー地の帯(まるでウクライナの国旗カラーのよう)。『消えた四島返還ー安倍政権 日ロ交渉2800日を追う』だった。「我が社あげてまとめた力作です。よく書けてると評判ですから、ぜひ読んでみて」と手渡された◆その後10日も経たぬうちに、ロシアがウクライナを侵略。世界の情勢は一変した。この本を見る目も変わった。当初は、「すれ違う日ロの世界観、官邸主導外交の功罪、米中対立ー。綿密な取材に基づいて本書が描き出す背景は複雑である。元島民の思いに強く寄り添っているのも本書の大きな特徴として挙げられよう」との今売れっ子の小泉悠・東大先端科学技術研特任助教のコメントに注目しながらも、そのうち読むかと、投げ出していた。しかし、まさに現代のヒトラーさながら殺人鬼と化したプーチン大統領と、27回も会いながら、何らの結果も出せず総理の座を投げ出した安倍晋三氏の交渉の日々に俄然興味が湧いてきた。プーチンと一体何をやりとりしてきたのか。表紙の「四島返還」のうえに小さく乗っかった「消えた」の文字が一段と興味深く見えてきたのである。一気に読み進めた◆従来の日本政府のスタンスを安倍首相及びその周辺は勝手に変え、「2島返還プラスアルファ」という道に突き進んだ。北海道に本拠を置き一貫して追いかけてきた地元紙らしくその一部始終を見事なまでに描く。一つ、この本の私風のマスターの仕方とでもいうべきものを披露してみたい。まず第一章「『一気に返還へ』外れた目算」を読み、次に第9章「日ロ、見えぬ針路」に一気に飛び、エピローグへと進む。その間に挟まれた新旧2人のモスクワ支局長のコラムに見入る。そうすると、全体の構成が明瞭になる。後の第2章から第8章は今日までの交渉史として貴重なものだが、あえて極言すると、枝葉であるかもしれない。安倍周辺の動きや発言はスルーして、プーチンやラブロフ外相の発言部分のみを追って見る。すると極めてわかりやすい。プーチンの人となりが白日の下に晒された今となっては、元々一ミリたりとも領土を手放すつもりはなかった。そんな気がするからだ◆実は、私は公明新聞記者として1960年代半ばから、北方領土問題に関心を持って自分なりに追ってきた。その所産をこのほど出版した『77年の興亡ー価値観の対立を追って』の第2章第7節「『北方領土』解決への回り道」にまとめている。自分としては渾身の力を込めて、わずか10頁だが集約してみた。ウクライナへのロシア侵略という信じがたい蛮行に接する一方、道新が総力上げて取り組んだこの本を読んでみて、我が10頁の総括に誤りなきことを確信した。強いて言えば「回り道」というタイトルにやはり我が見立ての甘さを感じる。回り道は、通常、遠かったと続くように、ゴールに到着してからの表現に用いられることが多い。その解決への道が全く見えなくなった今となっては、「解決への道なき道」とでもすべきだったかもしれない。(2022-3-9)

 

 

 

 

 

 

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