【30】逆転、横転、自由自在にー網本義弘『発想考楽ーふと思うことを楽しむ』を読む/4-19

 「発想工学」なる珍しい学問を専門にされる元九州産業大学教授がおられ、その人は我が母校(長田高校)の一年先輩で、とてもユニークな人だと聞いていた。その網本義弘さんに会う前に読まねばと、『発想考楽──ふと思うことを楽しむ』を読んだ。この本、表紙が表と裏とに二つある。どちらからでも読める。バーコードのついている後ろから読むことにした。読売新聞西部版に連載(2006年)された随想が20本並ぶ。このうち、「モンスーン応用 雨を利用した国土づくりと発電」では、故高橋実氏(原子力エネルギー研究者)の「鋼矢板ランドフォーメーション(国土造成)作戦」に網本氏が刺激された話が紹介されていて、面白い。

 全土を碁盤の目のように区分けし、格子部分が水路となるよう工事用の鋼矢板(鉄板クイ)を打ち込む。水路内部の水没した部分の土と水をポンプで一緒に吸い上げ土地部分に入れていくと、水が鉄板のすき間から水路側に排出され、土砂だけが積もっていく。これを繰り返し、天日で乾燥させれば、はい、人工台地と運河が一石二鳥で出来上がり‥」──これはヒマラヤの麓で水害に喘ぐバングラデシュを救うために提案されたものとのこと。これに発想を得た網本氏は、「商店街のアーケードをダムとし屋根に水をため、雨が落下するエネルギーで発電すれば『雨が降れば光り輝く商店街』が出現する」と、水力発電の超小型版を提案。「為政者の決断力に掛かっている」と結び、政治家に下駄をあずけている。

 ●杖代わりのキャリーバッグ

 一方、環境デザイン誌に連載(2013-2020)の方は、「デジタル折り紙発案」「筋交いトラス空間の温故創新」などといささか難解な着想によるものが25本並び、「誰もがアッという間にデザイナー」と銘打たれた、様々なデザイン術も公開されている。デザインに関心ある向きには垂涎の的に違いない。そんな中で、異職種交流会の展開について書かれているくだりが目を引いた。音楽から天文学までの多種多彩な職種の人々と交流をされている姿は極めて興味深い。米韓中の会合に日本人の網本氏が「中国代表」として参加したという。よほどの中国通に違いない。昨今の中国事情を聞きたいとの思いが募った。そこで去る15日に博多天神のNホテルで、高校同期の大谷忠彦福岡工大理事長と3人で会った。超ミニ同窓会だ。現れた網本氏の手にはとても大きな旅行用キャリーバッグが。挨拶もそこそこに、どこかからのお帰りですか、それともこれから?と訊くと、いや「杖」代わり、だと。いきなり発想の妙味を思い知った。テーブルに着いてからは、次から次へとご自身の来し方を語られた。

 その内容が尋常ではない。もの作りに関心が強く、小学生になってからケント紙で、いろんなものを作った、と。例のバッグから写真に撮られたコピー用紙を取り出された。ボート、建築物、戦艦大和に至るまで、多種多様なものが本物と見紛うばかりの出来栄え。これ、全て紙で出来上がっているものなのである。実に見事という他ない。技術工作が最大の苦手だった私など、この瞬間からもうお手上げ。高校時代も、もの作りに没頭したため通常の勉強は殆どせず。成績も下位。それを東京教育大(現筑波大)からは総合的もの作りで鍛えた猛烈極まる集中力で、あっという間に成績は向上、見事合格してしまった。更に大学を休学して、2年半ほどかけて欧米を無銭旅行した、と。

 しかも帰国後『ギリシア讃歌』(原書房)なる本まで出版。まさに行動において『なんでも見てやろう』の小田実を超え、書くものにあっては『アポロの杯』の三島由紀夫並み。ただただこちらは拝聴するのみ。元新聞記者としてはこれではいかんと、「現在の中国をどう見られるか」と辛うじて口を挟んだ。答えていわく、9年前のUNESCO北京サミットの講演で、登壇寸前にテーマを変えて、「平等民主主義」なるタイトルで話した。以来、招かれなくなった、と。うーん。最後の最後まで圧倒され続けた1時間半だった。

【他生の縁 ユニークな「網本私塾」の塾生】

網本さんの大学の卒業生のひとりに姫路市在住のA君という造園業を営む、個性豊かな私の古い友人がいます。彼は九州産業大後援会の幹部ですが、同時に「網本私塾」の塾生として、しばしば姫路からはるばる福岡に足を運んだといいます。

 現代においてどの分野であれ、いわゆる古典的師弟関係を貫くことは珍しいと思われますが、このほど網本さんに直接お会いし、その後もやりとりを繰り返してみて、さもありなんと思いました。一途に真なるものを求め、破天荒な生き方をするA君の姿を見るにつけ、この師あらばこそと、改めて腑に落ちたしだいです。

 福岡周辺には高校同期が6人ほど健在しています。いずれ劣らぬ多士済々の面子。網本先輩を囲んで集まればさぞ面白いはずだと、大谷君にけしかけていますが、さてどうなることやら。

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