「目茶苦茶に面白いよ。こんな本こそあなたに書いてほしい」ーメールとともに、一冊の本が私の手元に送られてきた。ヨナス・ヨナソン『国を救った数学少女』(中村久里子訳)である。送り主は笑いの伝道師・高柳和江女史。ほかに読む本はいっぱいあり、あまり気のりはしなかったのだが、読み始めた。二か月ほどかけてようやく読み終えた。いやはやまさに面白く、”喜劇小説の王女様”かもしれない。ただし、少々長い。暇な人は一気に読めるだろうが、御用とお急ぎのある人には進められない▼この著者はスウェーデン生まれ。地方紙記者を皮切りにメディアの世界で活躍してきた。この作品の前にも『窓から逃げた100歳老人』を出版。世界中で1000万部を超える大ベストセラーとなっているという。確か、すでに映画にもなったと記憶する。100歳の老人アランが活躍するハチャメチャな喜劇小説だったが、今度のは南アフリカ出身の少女・ノンベコが爆弾一個を巡って王様と首相と世界の危機を救うというドタバタ喜劇。笑いを生涯のテーマとする高柳先生ご推奨のことだけはある▼前作もそうだったが、この人の持ち味は史実とフィクションを巧みに織り交ぜるところ。どこからどこまでが本当か分からなくなり、人によっては全部本当だと思ってしまいそう。随所に皮肉を利かせた語り口は最高だ。エリツインが公式にスウェーデンを訪問した際に、石炭発電所がひとつもないこの国に対して石炭発電所を閉鎖せよと要求した、その酔っ払いぶりなどはかわいいが、ジョージ・ブッシュが「サダム・フセインが持ってもいない武器を排除するという目的でイラクに侵攻した」というくだりは痛烈なアメリカ批判で単なるブラックユーモアを超えている。現代世界批判をこうした笑いに紛れ込ませる手法は巧で鮮やかである。ジャーナリスト出身の手際の良さと造詣の深さが頼もしい▼この本のタイトルは、現作では「The Girl Who Saved the King of Sweden」となっており、数学は入っていない。数学少女で良かったのかどうか、疑問は残る。わが友・高柳女史は笑いで日本中を救うという壮大な試みを展開しているが、この本は彼女の感性に見事にフィットした小説に違いない。読んでいてしばしばノンベコとダブって見えてくるから不思議だ。私も生涯で一冊ぐらい小説を書いてみたいという気がしないでもない。その本のタイトルは「国を救った笑医」とでもして、彼女の一代記を書くか。英訳されると「The Woman who Saved Japan with lauh」ということになるかもしれないーなどと考えてるうちに秋の夜の夢から覚めて、今宵二度目のトイレに立った。(2015・11・10)