安保研究の「知的怠慢」を指摘ー山本章子『日米地位協定』を読む

目が覚める思いがした。「日米地位協定合意議事録を撤廃し、日米地位協定の条文通りの運用を行うことによって、不完全ではあるが協定が抱える問題の大部分は改善される」ーこの記述を山本章子『日米地位協定』の終章で発見した時のことである。政治家として長く「日米地位協定」の改定をせよと、外務省や米国務省に要望してきたのだが、いつも日米一体の門前払い的対応に歯噛みするのみ。この視点は欠落していた。著者は、この議事録が1960年に締結されてから、60年を超えて公の場で論じられてこなかったのは、「単に政治の場やメディアで注目されず、知られていなかっただけ」で、「日米安保研究の知的怠慢のせいでもある」と厳しく断じている。もちろんご自身もその責めを負うことに言及されている。このくだりを読んで、政治の世界に身を置いてきたものとして、恥いらざるを得ない▲この書物を読むことになったきっかけは、昨年末に山本さんが毎日新聞に寄せた寄稿文である。元東京新聞論説主幹だった宇治敏彦さんの一周忌にこと寄せて「心から尊敬する人物で政治史の師である」との書き出しで、様々のエピソードを交えた心惹きつける内容であった。実は、宇治さんは、私が所属する一般社団法人「安保政策研究会」(浅野勝人理事長)の草創以来のメンバーで、理事をしておられた。中途加入した私に、色々と声をかけてくださる優しい先輩だった。版画入りの俳句集を出版されていたことも印象深い。この寄稿文を読んで私が感激した旨を同会の仲間にメールで知らせたところ、柳沢協二・常務理事(元防衛省官房長)から直ぐに反応があった。山本さんがこの『日米地位協定』で石橋湛山賞を受賞されたことなど、いかに有能な研究者であるかを教えて頂いたのだ▲この本は「日米地位協定」をめぐる一連の経緯について詳細にまとめられており、その価値は極めて高い。関心を抱く人なら座右に置いておくといい。役立つこと請け合いである。私の衆議院議員としての20年間は、ある意味で「無念なことのみ多かりき」歳月だったが、この問題はその最高峰の位置を占める。沖縄における米軍人による少女暴行事件など乱暴狼藉が起きた時には本土でも怒りが盛り上がる。被告人の裁判は勿論、身柄拘束さえままならぬ現実を変えるために壁になっている「地位協定」改定機運が高まるが、やがてしぼむ。その都度国会でも声が上がるが、結局は陽の目を見ぬままに終わってしまう▲この点について、沖縄海兵隊の元幹部で、今は政治学者のロバート・エルドリッジ氏と私はしばしば論争してきた(幾度か書いてきたので、ここでは触れない)。結論は日米地位協定の改定しかないと私が言うと、不思議に彼は黙ってしまう。昨年その謎が解けた。実はこの5年ほどの間、彼は沖縄における米軍人の犠牲になった女性たちのために戦ってきていたのである。昨年、逃げていた米兵を発見することに尽力し、遂に捕まえたという。彼はその経緯をある新聞に寄稿した。その見出しは「日米地位協定の改定を」であった。そこでは、日米双方の責任ある部局がそれに不熱心であり、日本の政治家も無力であることを批難していた。何のことはない。彼は自身の「善行」を隠していたのである。成果が出ていなかったからであろう。日本の武士道を思わせる彼の振る舞いに、口先だけだった私は〝負けた〟との実感を抱くほかなかった。(2021-1-29)

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