科学者の「天風哲学」に基づく老いへの備えー合田周平『晩節の励み』を読む

 システム工学を専攻する著名な電気通信大の名誉教授。『海洋工学入門』なる著作で毎日出版文化賞を受賞されたひとーこういった人物紹介ではこの方、合田周平さんの表部分をとらえたことにしかならない。精神形成の深いところに関わるものは、財団法人「天風会」の元理事長を務めたひと。その団体の創始者で実践哲学者の中村天風の高弟と紹介すべきだろう。こう述べてくると、およそ近寄りがたいうるさい御仁を想像されるかもしれない。しかし少なくとも私にとっては違う。初めて知り合い、語らったのはもう20年ほど前に遡る。台湾での日台交流の場(「アジアオープンフォーラム」)であった。「天風会」をめぐって大いに話が盛り上がったことを覚えている。先年、実に久しぶりに東京でお会いしたが、80歳を有に超えておられるにも関わらず、颯爽として見えた■先日、FB上のやりとりで合田さんが『晩節の励み』という本を出版されたことを知り急ぎ読んだ。読みやすくて、生きるうえで大いに役立ちそうな本である。若者にも、そして年老いたひとにも。人生の指針たりうる言葉に満ち溢れている。晩節を汚すことのないようにするための手引きの書でもある。実は、私は高校に入ったばかりの頃に、親しかった友人の故西園寺健弘の紹介で「天風会」に入会した。中村天風そのひとにも一度だけだが、目白・護国寺の天風会館で聴衆のひとりとしてお会いしたことがある。天風会の実践をする研修会にも参加した。というのも西園寺の叔父貴(国際基督教大学の教員だったと記憶する)がやはり天風先生の弟子のひとりだったから、それなりの影響を受けざるを得なかったのだ。後に創価学会に入会していらい、そちらの方とは疎遠になった。この本には「座標軸としての『天風哲学』」、「こころみイズムとは何か」といった門外漢には、少々なじみが薄い切り口が並ぶ。しかし、現代中国で人気を誇る京セラの稲盛和夫氏の講演録のさわりが紹介されているあたりから俄然身を乗りすことになる。そう、このひともまた天風門下。合田さんとはいわば兄弟弟子なのである■後半には「八十路の哲学」や「晩節の励み」として「健康長寿」や「逝去の覚悟」といった高年齢者のたしなみめいたものが満載されており、その語り口は万人に適応しそう。例えば「悲観的な言葉を発すれば、自分自身も悲観的な気分に沈むことになる」「自他ともに、楽しく愉快になる言葉を口にしよう」といった、どこでも目にする呼びかけから始まり、鏡の前で自分の顔を見ながら「お前、病気を気にしなくなる!」と声を出して強く訴えよ、との自己暗示法に至るまで実に多彩だ。そんななかで「クンバハカ」は一般的にはまだまだ知られていない天風の訓練法のエッセンスである。「肛門を締めながら、肩の力を充分に抜いておろす。そして同時に下腹部に力を充実させる」ーつまり、「尻・肩・腹」の三位を一体として事に当たれ、というのだ。これは簡単のようで意外に難しい。若き日に学びながら未だに身についていない私はよほど不器用なのかもしれない■ところで、つい最近のことだが面白い”警句連作もどき”のようなものを、日本で唯一の坑道ラドン浴「富栖の里」(姫路市)の食堂の壁で発見した。「18才と81才の違い」と題した作者不詳のものだが、思わず笑った。「道路を暴走するのが18才、逆走するのが81才。心がもろいのが18才、骨がもろいのが81才。偏差値が気になるのが18才、血糖値が気になるのが81才。受験戦争を戦っているのが18才、アメリカと戦ったのが81才。恋に溺れるのが18才、風呂で溺れるのが81才。未だ何も知らないのが18才、もう何も覚えていないのが81才……」まだまだ続くが、この辺でやめておく。合田さんに怒られそうだから。尤も、笑いは身体に悪くないから許してもらえるかも。そういう老人にならぬためにも、この本を読む必要があろう。ついでに「17才と71才の違い」と置き換えても、ほとんど似たようなものと、気づくのにあまり時間はかからなかった。そうだ、西園寺が心臓弁膜症で死んだのは17才、高校生のときだった。あっという間に54年ほどが経った。いつまでも17才のままの友を想い続けているから、私は71才になっても、精神年齢は彼と永遠に別れた歳と同じままなのかもしれない。                                               (2017・6・23)

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