(342)6-① ユニークな外科医の只ならざる提案━━邉見公雄『令和の改新 日本列島再輝論』

◆再び日本を輝く国にするための数々の提案

   今から25年ほど前だったろうか。赤穂に大変ユニークな病院長(赤穂市民病院)がいると聞いて、会いたくなった。当日その人は下駄の音も高らかにやってきた。背広に下駄。お顔には長い顎髭。いでたち佇まいからして大層変わっていた(当時は白髭でなく赤ひげに、私の目には映った)。以来、様々の場面でご指導、ご鞭撻を頂き、お付き合いを重ねてきた。誰あろう、つい先年まで全国自治体病院協議会会長(現在は名誉会長)を務めていた邉見公雄さんである。

 その彼の『令和の改新』なる本を読んだ。一読、日本を再び輝く国に変えたいとの溢れんばかりの心情が伝わってきた。笑いと涙なしには読めない。面白くてためになる、深〜い本である。改めてこの人の凄さを思い知った。日本の行く末に関心を持つ人びと全てにとって必読の書だと思う。

 邉見さんは、この本の中で多くの貴重な提案をされている。それは第一章と巻末の「平成こぼれ帳」に集中。この中から私が勝手にベスト5を挙げてみよう。第一に、子供が選挙権を得るまで、母親に子供の数だけ投票権を与えること(父親は誰の子かわからないこともあり外すとのこと)。第二に、中央省庁の地方移転。46道府県に少なくとも一つの政府機関を置くことから始めるべし、と。一番急がれるのは、気象庁の沖縄移転。第三に、皇室の分居。高松宮家は高松に、常陸宮家は常陸水戸に、秋篠宮家、三笠宮家は奈良に、秩父宮家は秩父に。こうすることで、首都直下型地震の備えになる。第四に、国民皆保険制度と憲法9条を和食より先に世界文化遺産にすべき、と。どちらも世界に冠たる珍しさが輝く。第五に、“ふるさと医療〟の提案。心ある医師が僻地や離島に行き、一週間でも一ヶ月でも診療に行く仕組みを作りたい。いずれ劣らぬユニークで貴重なアイディアである。

◆無理筋の豪快な提案ベスト3

 一方、これらとは別にかなり無理筋と思われる豪快な提案もされている。ベスト3を挙げよう。第一に、もう終わってしまったが、東京オリンピックの中止をあげていた。東京一極集中を更に強める二度目の開催ではなく、トルコ・イスタンブールに譲ることでの悲願の五大陸開催に繋がる選択をすべきだった、と主張されていた。日本でやるなら、東北合同とか広島、長崎合同開催の方がインパクトが強かった、とも。第二に、リニアモーターカーの中止。〝ゼネコンのゼネコンによるゼネコンのための大工事〟は、発展途上国向けのショーウインドウであり、「21世紀の無用の長物」間違いなし、と。第三に、原発を廃止し、自然エネルギー発電に国民全体で取り組むべきであり、地震や津波に安全なところはどこにもない、と。オリンピックはともかく、リニア、原発も改めて立ち止まって考える必要がある。

 第二章は医師(外科医から病院経営)としての「自伝」の趣き。破天荒な活躍の中に、胸詰まる失敗談も挿入されていて極めて印象深い。人情噺としてこれ以上は望めないほどの〝栄養源〟が詰まっている。第三章は、日本病院団体協議会(日病協)の立ち上げや、中央社会保険医療協議会(中医協)での活動などを巡っての「回顧録」の風がある。総じて、ご本人は、遺言のつもりとして書かれたという。全編に漲る強い信念と大確信の所産であることがビシビシ伝わってくる。医療に従事する人はもちろん、全ての患者さんに読ませたい。日本中の医院の待合せ室に置かれることを望む。

 ただ、読点が極めて少ない分、当初は読みにくさがいささか付き纏う。だが、読み進むにつれて、著者独特のリズミカルな文章展開と分かって、もうクセになりそう。政治家、物書きの端くれとして、邉見さんの提案や生き方に心底から眩しさを感じる。こういう人こそ厚生労働大臣に、いや総理大臣になって貰いたかった。

【他生のご縁 日々交流を深める医の巨人】

 この本の出版の直後にコロナ禍が起こりました。全国自治体病院協議会の会長を辞されたとはいえ、邉見さんは八面六臂の活躍をされました。中でも、『看護師が見た!新型コロナウイルス』の緊急出版は二冊に及んでおり、そのスピード感はただならざるものがありました。ここには、医療関係者のリアルな声が満載されており、貴重な証言集になっていました。

 第一弾のは、病院長ら幹部クラスで現場からの遠さが否めなかったのですが、第二弾は現場の看護師さんが多く登場され読み応え十分でした。中でも、県立尼崎医療センターのO看護師さんの報告は胸打つもので、感動しました。地元兵庫の人なので、探し出して交流ができたのはとっても嬉しいことでした。

 邉見さんは、拙著『77年の興亡』の読書評を『公私病連ニュース』(3-1号)の「一冊の本」なるコラム欄に取り上げてくれました。これはなんと、直木賞作家や著名な文豪のものと3冊併記で、「看板に偽りあり」でしたが、恐らく私のものを単独で取り上げるには憚れるものがあったのでしょう。思わず苦笑。贅沢は言えません、ありがたくおし頂いたしだいです。さらに第二弾の『新たなる77年の興亡』も、引き続き同ニュースに掲載されました。

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