(353)キリスト者の人生の終焉をめぐって━━曽野綾子『死学のすすめ』を読む

 キリスト教カトリックを信仰していた歳上のいとこの葬儀に出たことがある。後にも先にもキリスト教信者の葬儀はこの時だけ。率直に云って、厳粛ではあるものの、いささか芝居がかっているというか、大袈裟な印象を受けた。それに比べると仏教の場合は概ね簡単素朴だと思う。僧侶の読経が中心で、賛美歌に類するようなものも通常はない。私の信奉する創価学会の友人葬は、さらに質実でそれでいてこころのこもった素晴らしい儀式だと思われる。作家の曽野綾子さんは著名なキリスト教カトリック信徒だが、かねてあれこれと死の迎え方をめぐる文章を著しており、その集大成とでもいうべきものを出版されたので、読んでみた。幾つか印象に残ったことを紹介したい。

 まずは、死に際しての宗教比較から。「カトリックのお葬式が一向に暗くない」ことを曽野さんは挙げているが、それは亡くなった人が「自分に与えられた仕事を果たして死んでいった場合」だとしている。聖パウロも晩年の心境は「走るべき道程を走り終え、信仰を守り抜き」きった状態だった、と。また、「聖パウロのように自分の人生を生き切った人」のお葬式で、「思わず笑顔がでる」とも。お葬式が暗くないのも、笑顔がついでてくるというのも私たち日蓮仏法徒も変わらない。神の存在を強調されている点だけが違う。他人との比較でなく、その人なりに精一杯やったかどうかを測定できるのは神だけで、神は「完璧に正確で繊細な観察者で」、「神の測定はまことに真実で個性的なのです」と。尤も、これも神を御本尊に置き換えれば同じことかもしれない。

●人間の最期に最も相応しい芸術としてのユーモア

次に、最も私が共感したところを。「ユーモアは人間の最期にもっとも相応しい芸術となりましょう」とのくだり。「残される人々に最後の温かい記憶を残して死にたいと思えば」、それはユーモアであると。全く同感するのだが、さてこれが難しい。私はこれまで知人、友人やその家族の死に際して、出来るだけ通夜は楽しく、を心がけてきた。元兵庫県教育次長を経てたつの市長をされた西田正則氏の義父のお通夜では、つい羽目を外してしまい、歌まで披露してしまった。喪主の西田さんも大変に愉快な人物で大いに喜んでいただいた(と思った)。翌日、葬儀に顔を出すと、受付にいた市長の息子さんが、私の顔を見て「また、きた」と口ずさんだのには驚いた。今に忘れ難い。

 義父の時は自宅でやったのだが、5つの小部屋にそれぞれの縁を持つ人々を集めて、独自の偲び方で盛り上げてもらった。あまりに楽しかったせいか「また、来たい」と云う人もでるほどだった。これは送る側のユーモアだが、送られるとなると、さて。「おれのいないおれの通夜は寂しいだろうね」との思いを馳せ、今から準備するしかない。

 最後に、とても真似できそうにないことを挙げてみたい。曽野さんは母上の死に際して、ご本人の遺志に従って、献眼をされた顛末を克明にしるされている。東大病院の眼科医が処置をするにあたって、「ここにおられますか。それとも場をはずされますか」との爽やかな質問を彼女にしたという。で、「ここにおります」と答えると、「お医者さまは母の顔の上に緑色の手術用の布をかけられ、約十分ほどで、その処置は終わりました」と。この行為をめぐる種々の思いを述べたあと、「(眼を差し上げたことが)どれほど私たちの心を明るいものにしたか、想像もできないほど」だったと強調。「この行為だけでも、母は決して地獄には行かないだろう、という安堵感に包まれた」と述べている。臓器移植については、他人のものとの結合の是非を始め、ついつい躊躇しがちである。若くていきのいい身体ならともかく、老いさらばえた臓器の使い回しなど、どうしても二の足を踏みがちだと思ってしまう。ともあれ『死学』なる学問もまた奥行きが深いように思われる。

【他生の縁 衆院憲法調査会で曽野参考人とやりとり】

 曽野綾子さんとは衆議院の憲法調査会に参考人として来ていただいた際に、私は質問しました。2000年(平成12年)の10月12日のことです。「21世紀の日本のあるべき姿」がテーマ。あの時から23年。殆ど記憶なし。そこで事務局に連絡して、議事録を送って貰いました。

 四角四面で言うと①21世紀の政治家に何を望むか②確立した「個」との接触が教育で最も大事ではないか──と訊いていました。ぶっちゃけていうと、❶「こういう政治家なら好きよ」って言ってみて❷「若い時にとんでもなく個性的な人と会うって大事でしょ」と聞いたのです。

 これには、曽野さんも「何か嬉しくなるように聞いていただきまして」と応じ「やはり明確な哲学とあえて危険を冒すという政治家になっていただきたい」との答え。後者には、強烈な個性の人に会うと、自分自身が伸びたような、幸せな思いに満ちましたと。我ながら素敵なやりとりでした。

 

 

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