前略 古田博司様 このところご無沙汰しています。その後お元気でしょうか。腰痛の具合はいかがでしょうか。先日出版元から送っていただいた『「統一朝鮮」は日本の災難』、ありがとうございました。一気に読んでしまったので早く読後感をと思いながら、今頃になってしまいました。相変わらず舌鋒鋭く、朝鮮民族に厳しいですね。これでは本当に伊藤博文や重光葵の二の舞になりかねないと心配します。もうそろそろこういう本は終わりにして、哲学論の新展開ー私の興味からすると、西洋と東洋哲学比較論などーをお願いしたいものと思います。また、最近の大学生や教授事情など、先生お得意の分野の裏表をご披露してほしいです■今回のものについては、私としては、第5章「韓国と北朝鮮は『一国二制度」になるか」における「未来予想」が興味深かったですね。かつて金日成が提唱した「高麗民主連邦共和国」構想が採用され、その後どうなるかということを占っておられるくだりです。あれこれ述べられたのちに、「将来南北が統一国家へと向かえば、巨大な中国経済圏に自然に呑み込まれ、漢字使用が中国の簡体字として復活し、韓国人の名前が中国風に変わってしまうことは、大いに先見されるところ」というのは、先生としては意外に平凡な結論付けでした。一方、米朝首脳会談をめぐって今後の推移予測は面白かったです。事が順調に進めば、北朝鮮のWMD(大量破壊兵器)破棄→終戦宣言→南北平和協定→在韓米軍撤退→南北朝鮮の統一日米防衛ラインの玄界灘までの南下→米中冷戦の日本最前線化。逆に、事がうまく行かなかった場合、米韓合同演習の再開→米の北朝鮮急襲→在韓米軍の脱出(いくらか被害を被るかもしれない)→大量の難民の韓国南下→韓国経済の崩壊→朝鮮半島のバッファーゾーン(緩衝地帯)再開→日米防衛ラインの玄界灘までの南下→日本の米中冷戦の最前線化。これってどっちに転んでも、結論は同じというところがミソですね。ともあれ中国が喜ぶ結論です■その後の推論も興味深いですが、最後に「あくまでも推論である。間違ってたらごめんなさい」って、いいですね。珍しく先生らしくなく殊勝ですね(ごめんなさい)。ともあれ❶在韓米軍がその根拠を失ってしまっていること、❷北朝鮮が核放棄をしなければ、終戦宣言も、平和協定も、南北統一もありえないこと、❸韓国は米国に見捨てられたことは確かだとされてるくだりも大いに注目されます。これからは、玄界灘に着目するしかないとして、「愚痴や未練は玄界灘に捨てて太鼓の乱れ打ち」と石川さゆりがテレビで「無法松の一生」を歌い出す日が来るかもしれないとされているところで、思わず口ずさんでしまいましたよ。尤も、私のは村田英雄調ですが■実は先生のこの本で最も感動したのは最末尾の一文です。「在日韓国人をイジメてはならない。在日韓国人には、私に日本と日本人を教えてくれた、私の妻のような『命の恩人』もいるのだから」と。随分前ですが、先生が読売新聞社から吉野作造賞だったかを受賞された時に、奥様には初めてお会いしましたね。聡明で素敵な方だとの印象はありますが、先生にとって「命の恩人」だとは驚きました。『東アジアの思想風景』『東アジア・イデオロギーを超えて』やら『日本文明圏の覚醒』など私が好きな先生の代表作に始まり、殆ど全てのご著作を読んできた私ですが、この表現に出くわすのはなかったと記憶します。そうです。先生には在日コリアについての思いの丈を書かれる仕事がまだ残ってますね。これは是非とも読みたいです。そのことによって先生の朝鮮民族に対する、真の結論付けが伺えそうな予感がします。そろそろ終わりにします。奥様、そして未だお会いしたことのない息子さんに宜しくお伝えください。 草々
赤松正雄(2018-11-16)