(360)罪深い〝パワフル市長〟の魅力と懸念とー泉房穂『子どものまちのつくりかた』を読む

30年住み慣れた姫路から明石に転居してやがて1年が経つ。明石海峡大橋と淡路島を借景に海岸まで歩いて15分の生活は、眼だけはコロナ禍にあっても十分に慰められている。この市はこのところ、若い人を中心に人口が増え「子育てしやすいまち」「駅前図書館・本のまち」として知られる。と同時に、「パワハラ」で、日本中に悪名を轟かせた泉房穂氏が市長を勤めることでも。その市長が出版した本『子どものまちのつくりかた』を偶然偶々明石駅前の書店の棚で発見して驚いた▲巻末に慶大の井手英策教授とのツーショット入り対談が掲載されているのだ。井手教授は財政社会学が専門。かつては前原誠司氏のブレーンとして名を馳せた著名な学者である。『分断社会を終わらせる』『増税幸福論』など知的刺激満載の多数の著作を持つ。この読書録でも以前に紹介した。保守の勢いが嫌まして強い、リベラル派退潮のご時世に注目の論客の一人である。とりわけ、ベーシックサービスの導入を強調されていることには刮目する(この辺りは別項で触れたい)▲驚いた理由は他でもない。井手さんが泉市長をまさにベタ褒めされていることに、である。「私がこれまで考えてきたこととも完全に重なり合います。自分がずっと訴え続けてきた思想、哲学を、実はもう率先して、前の段階から実践されていて、こういう素晴らしい結果を出しているまちがあると知り、本当に励まされる思いです」と。慌てて、私はこの本の奥付きを見て出版日を確かめた。かの事件が公になった直後と知って胸撫で下ろす思いがした。と同時に、当時の井手さんの驚きに他人事ながら同情を禁じ得なかった。ったく、泉さんは罪深い、とも▲本人は猛省したうえ、ひとたび辞任し、病的な性癖への専門医の治療を受けたのち、少なからぬ市民の要請を背景に、出直し選挙で返り咲いたことは周知の通り。旧聞に属することでもあり、改めて旧悪をここでは持ち出さない。それよりも、この本の中で理念が示され、現に展開される「子どものまち」のありようをめぐっての建設的論争に関心を持ちたい。今もなお、反泉陣営からは、「財源に問題あり、市政は必ず将来破綻する」との声は根強い。また、駅前だけは活気があっても、少し離れるとシャッター商店街の実態は今なお続く。この本を基に有意義な議論が展開されることを望みたい。(2020-10-1)

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