(381)米国流への心酔だけでいいのかー相島淑美『英語でマーケティング』を読む

 マーケティングについて英語で書かれた本を読むーおいおい、赤松。どうしたんだ、って思われるに違いない。英語が得意でもなく、マーケティングともあまり関係がないはずと、私を知る多くの人は見る。その通りだ。だが、その本を書いた人が並外れた知的経歴を持つ魅力ある女性で、異業種交流会で知り合った人だといえば、一転なるほどということになるかもしれない。議員引退後10年近い歳月の間に数多の新しい分野に友達が出来たからだ。そう、著者の相島淑美さんはそのうちのひとり。上智大学で英語を学び、日経新聞で流通経済の現場を取材した後、慶応義塾大学院に入り直しアメリカ文学を研究。修士となって清泉女子大専任講師として教鞭を取る。その一方で翻訳家として20数冊の書物を訳す仕事に従事し、さらに関西学院大経営戦略科のMBAとしてマーケティング習得に磨きをかけ博士号を取得、今は神戸学院大学経営学部准教授を務める◆こう記すと、およそ近寄り難く気位の高い、うるさい女性と思われる向きが多いに違いない。しかし、その見立ては全くのハズレ。数年前に中小企業の社長で関学大MBAという、これまた際立って優秀な、高校の後輩Y氏から紹介を受けて以来、時に応じて交流を深めてきた。付き合うほどに、人としての佇まいと品の良さに心うたれる。彼女が翻訳した、ロバート・ダレクの『JFK 未完の人生』(2006年刊行)については、すでにこの欄で紹介(2015-10)したが、この度その女性が初めて自著を出版した。しかも英語を取り扱う分野で聳え立つ研究社から。とくれば、英語もマーケティングも苦手などと言っておられない。著者自身に肉迫する思いで読んだのである◆観光やアパレル業界などにまつわるマーケティングに関する三本の英語論文(抜粋)を優しく解説した本である。「英文に引っ張られるのでなく、自分から先に何が書いてあるかを予想しながら読む習慣をつけると、英文が無理なく読めるようになります」「抽象的な言葉が多く使われていますが、教育実習生と指導教員の関係を思い浮かべながら読んでいくとよいでしょう」ー長年に渡り、英書と格闘してきた人ならではのアドバイスが随所に光る。こういう英語教師と出会えなかった我が身の不運が悔やまれる、というのは少々言い過ぎかもしれないが、それに近い感情を持ってしまう◆ コロナ禍の直前、日本中はインバウンドに沸き、〝おもてなし〟に関心が高まった。マーケティングの本場・アメリカでのホスピタリティとの違いはどこにあるのか。かつて、明石港、淡路島を拠点に、瀬戸内海の島々をめぐる観光に執念を燃やした私もあらためて思いをめぐらせた。達成すべき100点満点基準を「ゴール」に設定するホスピタリティ。これは、基準をいかに効率よく達成するかがポイントだ。一方、日本の〝おもてなし〟に「ゴール」はない。どこまでいっても、まだまだよりよくする余地はあると、著者はさらに「表面的な行為は似ていても、前提となる発想は大きく異なる」と切り込む。翻訳と解説に未整理なところが散見されていささか気になるところがあるものの。刺激に溢れた好著である。「英語」と「マーケティング」どちらかに関心を持つ人に、勿論双方共に学ぶ多くの人に勧めたい。(2021-3-26 3-27一部修正)

★他生のご縁

 相島淑美さんが翻訳した(翻訳者名は鈴木淑美)『JFK  未完の人生』は、ケネディの知られざる一面をふんだんに盛り込んだ面白い本でした。とりわけ、「華麗なる大統領ープライバシー」の14章は興味津々です。「健康問題や兄妹の早世からくる『先が長くない』という気持ちから女遊びに走ったが、それは今でも変わらなかった。この先まもなく、核戦争が起こるかもしれない。となれば、人生を出来るだけ満喫したい、やりたい放題して生きたい、という衝動に拍車がかかった」とのくだりには衝撃を受けました。

 マリリン・モンローとの浮名など女癖の悪さは知らないわけではなかったのですが、このくだりは首を傾げざるを得ません。強いリスペクトの思いを持っている私には、著者の表現のありように疑問さえ抱いてしまいます。無理を承知で、相島さんに直接問いただしたい衝動に駆られてしまいました。

 その後マーケティング研究の学者に変身した相島さんは、新たに『響創する日本型マーケティング 理論と実践』(佐藤善信関学大学院教授ほか編著)という本の著者に名を連ねています。佐藤門下の10人の弟子たちの一人として、「おもてなしにおける場の生成」という興味深い章を担当しています。と同時に、コーディネーター役をされたようで、先日、本をいただいた際に、このテーマの可能性と重要性に並々ならぬ手応えを感じておられる風にお見受けしました。『万葉集』の時代から、今の世まで、文学、文化の視点から分析された手法は、大いに惹きつけられます。

 

 

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