世界中が「分断」で喘いでいる最中に、日本だけが奇妙な静謐さの中にある。その理由を解き明かし、民主主義の未来のためには、もっと「分断」が必要だと強調する。著者の三浦瑠麗さんはテレビメディアで売れっ子の若き国際政治学者。自らが主宰するシンクタンクによる意識調査をもとに、独自の日本人の価値観を浮かび上がらせたうえで、日本政治の今を分析する。私としては知的刺激をそれなりに受けたものの、やがて公明党への記述が極端に少ないがゆえの物足りなさに浸ることになった◆戦後日本の「分断」の最たるものは、日米安保条約をめぐる論争であり、その同盟の是非を問う政党間競争だった。それは今なお、経済、社会的テーマが与野党の大きな違いを生み出しえずに後衛に退き、「安保・同盟」が殆ど唯一の争点となって続いている。そこへ「安全保障」におけるリアリズムの台頭という現象が定着してきた。であるがために、結果的に劇的な変化が起こり辛くなっているというのが大まかな著者の見立てである。「政治による分断は、それが内戦ではなくゲームにとどまる限りにおいて存在意義を見直すべき」で、「あらためて健全な分断とは何かを考えなければならない」と三浦さんは本書を結ぶ◆健全な分断のない、日本独自の閉塞した事態はなぜ起こっているのか。その要因の一つに、私は「公明党の与党化」という問題があると睨む。自民党政治の小さな「安定」に腐心し過ぎた結果、大きな「改革」が滞っている。だらしない野党に代わって、今一度日本政治の覚醒のために公明党はシフトチェンジすべきだ、と。この観点に立って本書を読み直すと、気付くのは公明党への言及の極端な少なさである。登場するのは僅かに2箇所。一つは、世論調査において「宗教を基盤とした公明党への投票者はそのことをあまり明らかにしない傾向があり、実際よりも少なくしか回答に反映されない」とのくだり。果たして本当のところはどうなのか。ステロタイプ的表現に陥っていて、掘り下げが足らないだけなのではないのか◆もう一つは、逢坂立憲民主党政調会長が、「政治は残酷なもの」の実例として、自分の所属する党と公明党を比べて「それほど立場が違わないのに逆のことをする」と挙げているくだりだ。これは、政策的スタンスに違いはあまりないのに、与野党の立場の違いから結果として逆の行動になるとの意味あいだと思われる。立憲民主党の愚痴的泣き言ではあるが、現状転換の糸口にも繋がる興味深い発言である。この辺りについて、著者にはもっと考察を深めてほしかった。また、「おわりに」で、コメントを貰った人の一覧に公明党のホープ・岡本三成衆議院議員の名前が見出される。三浦さんが何を彼に聞き、どう彼が応えたのかが皆目わからないのは気にかかる。(2021-4-10)
★【思索録】では、新たに「『新・人間革命』から考える」をスタートさせました。13日付けで、第一巻「旭日」の章と取り組んでいます。