英国をどう見るか──かつては、世界に冠たる海洋国家として七つの海に君臨した勇壮なる国家だったが、米国にその首座を明け渡してからは「英国病」の名の下に落ちぶれる一方。最近に至っては、すったもんだの内輪揉めの挙句に「EU離脱」から、あわや身内からスコットランドが独立するのか、との動きに苛まれる始末。ミニ・トランプばりのジョンソン首相も「コロナ禍」に悪戦苦闘中。こんなイメージが一般だと思われるが、それをぶっ飛ばす凄い本が『復活!日英同盟』である。著者は旧知の元NHK解説委員の秋元千明氏。現在は英国王立安全保障研究所(RUSI)日本代表である。
秋元氏は、英国が外交戦略の見直しに立った上で「EU離脱」を選択し、グローバル・ブリテンの構想のもとに、今や日本と共に「インド太平洋時代」を担う存在であることをこの本の中で、克明に明かしている。つまり、一般的に伝えられているような、英国は「EU離脱」によってやむなく戦略変更を迫られたのではないことを、安倍・メイ外交に遡って(更に野田民主党政権時の動きにも)、日英合作の経緯を追う中で、証明してみせているのだ。日英同盟の復活で「インド太平洋」構想に筋金が入り、それによって中国の「一帯一路」構想に立ちはだかることが可能になるというのである。なんだか急にユニオンジャックに後光が差してきたかのように思われる。
●危ない綱渡りだったが、当初の筋書き通りに
これを読み終えて、元英国大使の林景一氏(前最高裁判事)の著作『英国は明日もしたたか』を思い出した。2017年に出版されると同時に読み、この「読書録」でもすでに取り上げた。当時の私は、英国が「したたか」なのは過去の振る舞いに照らして解るものの、これからはもはや無理かも、と思わざるを得なかった。だが、同時にメイ首相が鉄の女・サッチャーさながらの「氷の女」と知り、その後の英国の変貌に一縷の希望を持ったものである。秋元さんは、2017年8月31日の「日英安全保障協力宣言」にはじまって、2021年に予定される新型空母「クイーン・エリザベス」の日本来航まで、一気に読者を惹きつける。
「インド洋と太平洋という二つの海が交わり、新しい『拡大アジア』を形成しつつある今、このほぼ両端に位置する民主主義の両国は、国民各層あらゆるレベルで友情を深めていかねばならないと、私は信じています」との安倍アピールが最初の号砲であった、と。そして、この本の末尾に「英国の新型空母『クイーンエリザベス』はそのことを伝えるため、2021年、はるばるインド太平洋に向けて出航する」との結びの二行まで続く。ここでいう伝えられる「そのこと」とは、「民主主義国家の集合意識」である
ただし私としては、「EU離脱」が逆に振れていたら、つまり「EU残留」だったら、水の泡になったかもしれないと思う。秋元氏がここで書いている流れはもちろん後付けではなかろう。だが、狙い通りだったのかどうか。恐らくは、危ない綱渡りをしたものの当初の筋書き通りに何とか事は運んだ、というのではないかと察せられる。だが、そのあたりの英国内の動きには触れられていない。
序章の末尾に「なぜ日英同盟なのか、その現状と今後の課題、また日英同盟再生の背景について考えてみたい」とあるものの、「日英それぞれのお家の事情に関心のある読者にとっては満足できる内容とはいえないかもしれない。その点はご容赦願いたい」とある。この辺り、日本の国内事情もさることながら、とくに英国内政治の観点からのフォローが無性に欲しくなってくることは禁じ得ない。
【他生のご縁 腰痛が取り持つ仲間たち】
時の流れは本当に早いものです。欧州も日本も、世界は「ウクライナ戦争」で大きく揺れています。「復活した日英同盟」は、まさに時を得て、民主主義国家群の中にあって重要な位置を占めつつあるといえましょう。
かつて読んだ宮澤喜一元首相と五百旗頭真神戸大名誉教授(当時)の対談『戦中戦後の体験私史』の最後のくだりで、「戦前期の日英同盟は20年続いただけですが、戦後の日米同盟は50年(2001年当時)です」と、五百旗頭氏が言ったことに対して、宮澤氏が「そうですか。日英同盟は20年ですか。意外に短いものですね」と返しているところが妙に印象に残っています。短かった同盟関係が今再び甦ることに期待する向きは少なくありません。
秋元さんと私は、カイロプラクターを頼りにする腰痛仲間です。私が名誉顧問をしている一般社団法人「日本カイロプラクターズ協会」の村上佳弘さんが二人を結びつけてくれました。私の手元にある秋元さんの本の裏表紙には「謹呈 村上佳弘様 親しみを込めて!秋元千明 2021-3-23」とのサインがあります。そして私は林景一元英国大使もこの世界に紹介しました。この人もまた、同病相励まし合う仲間だったのです。