昔の坊さんが書いた今の若者への生き方、働き方指南の書ー兼好『徒然草』を読む/4-23

昨年の今頃、コロナ巣ごもり中で放送大学の講座に夢中になっていた。国際政治学の高橋和夫さん、フランス文学の宮下志朗さんと並んで、私がとても感動したのが島内裕子さんの『方丈記と徒然草』講義であった。今の時代から超然と離れた平安風の佇まいと独特の静かな口調が特徴的だった。しばらくは、この人の世界に嵌ってしまったものだ。それから約一年。先日、NHK の教養番組『知恵泉』の「兼好法師 一人を愉しむ」に登場されているのに出くわした。チャーミングな実業家・ROLANDとアフロヘアが似合うエッセイスト・稲垣えみ子と一緒に、『徒然草』の〝読み解き〟をされていた。三者三様。まずは皆さんのお顔(髪の毛、目元・口元、耳元)に目を奪われてしまった。それぞれ誰のどの部分かはご想像にお任せする▲兼好のこの作品については「徒然なるままに」から始まる一文だけで、「以下省略、以上終わり」になる人は少なくない。かくいう私も「243段」ものパーツからなるとは知らなかった。『方丈記』に比べて長いことも遠ざけられる運命と繋がる。ただ、第一段の「いでや、この世に生まれては、願わしかるべき事こそ多かめれ」と、人間の誕生から始まって、最終段の「仏は如何なる物にか候ふらん」との問いかけで終わる、この本の構造は、誰しもが興味を持つ人間存在に深く関わる。「昔むかしに坊さんが暇に任せて書いた随筆」だなどとして放置するのはあまりに惜しい▲「ちくま学芸文庫」に収められた訳本は、兼好の本文と彼女の「校訂・訳」と評から成り立っており、今に生きる人間にとってもアプローチしやすいように噛み砕いて(大胆な意訳が魅力)くれている。島内さんは38段から41段のくだりが、それ以前の兼好の生き方が根底から変わったターニングポイントだと、最重要箇所に挙げていて(放送大学講座でも「知恵泉」でも)興味深い。それは一言で言えば、座学の人から人間の只中で生きることの大事さに気づいた転機ということになる。そう結論だけ聞くと、「ああそういうことか」となり、それでおしまいになりそうだが▲『徒然草』は生き方指南書というのがこれまでの定評だが、「知恵泉」では「この本はビジネス書」との読み方を提起していた二人のゲスト(沢渡あまね、吉田裕子)の指摘が面白かった。複数の企業で働くパラレルキャリアと、外に出ることで人と繋がることの大事さを読み取れるというのだ。これを聞いて、全く私の生き方と似てると共鳴した。定年後、複数の団体、企業の顧問として関わり、様々の領域、職域の人々と繋がって生きているからだ。こう聞くと、また「あっ、そう。はい終わり」となりかねない。さてさて、至るところに中断、挫折が待ち受ける本ではあるが、それは私が老人だからであって、若者にはそんなものは通用しないはず。そう、この本は青年必読の書なのである。(文中敬称略 2021-4-23)

Leave a Comment

Filed under 未分類

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です