兵庫県の姫路市で戦争直後に生まれ、少年時代を神戸市で過ごし、青年期を東京で生活した私は、プロ野球はどこのファンだったか?「そんなん知らんがな。勝手にせぇ」と言われるでしょうが、しばしお付き合いを。答えは「南海ホークス」。「今そんなんあらへんがなあ。今あるとこはどこが好きや。福岡ソフトバンクホークスか?」「ちゃいます。どこも好きやないけど、強いて言えばアンチ巨神ファンやね」ーという人間が「虎きち」の経済学者が書いた『阪神VS巨人』を読んだ。以下、へそ曲がり的野球論の一席▲著者の橘木俊詔さんは、かつて虎きちで鳴らした国際政治学者の高坂正堯さんと同じ京大のセンセイ。国会に来てもらい『経済格差』論を一度だけ聴いたことがあるが、その時は野球の「や」の字もなかった。当然のことながら、この本では阪神と巨人について蘊蓄の限りを傾けながら、ご専門の「労働経済学」から「経営と労働としての評価」にも一章を割いていて興味深く読ませる。それ以外は、伝統の一戦となった由来、ライバル関係の軌跡から始まり、代理戦争論やら地方球団論、未来予測まで、一気に痺れるほど説きまくっている▲ただし、私のような爺さん世代には大概は想定内の記述で新しい気づきはない。尤も若い世代には新発見の連続で、面白く読めるに違いない。野球と相撲くらいしか馴染める運動がなかった頃と違って、今やサッカーからバスケットボール、ラグビーまで数多くのスポーツに世の中は溢れている。Jリーグが登場し、日本中をサッカーが席巻した頃、人気の首座が交代したかに思われたが、この本を読むと未だ未だ野球は根強い。男性では、30歳まではサッカーと拮抗しているが、それ以上の世代では圧倒的に野球が上位を占めていることが分かる(NHK世論調査)。女性には人気がないがこれは今に始まったことではない▲さて私は何故南海ホークスファンだったか。一言で言えば、人気があるリーグ、チームが嫌いだったことに尽きる。セリーグ、巨人をやっつける快感を味合わせてくれるパリーグの覇者・南海こそ、その願いを叶えてくれるチームだった。阪神は甲子園球場が西宮市という兵庫県に位置しながら、大阪を代表するかのごとく、世間が言いふらすのも気に入らない。〝六甲おろし〟は主に神戸に向かって吹くではないか。大阪の人間が難波のど真ん中にある南海を応援せずしてどないするんや、というのが子どもの頃の気分だったのである▲そんな南海が昭和とともに、大阪から消えて無くなったのは無性に悔しかった。あろうことか、かつてのパリーグ内ライバル西鉄ライオンズも身売りしてしまって福岡から消えた。ただし、その地にダイエーからソフトバンクへと親会社は変わったものの、ホークスという名だけは続く。このチームは今や球界の盟主的存在だ。かつての南海と西鉄の魂が乗り移ったに違いない。人気に甘えた阪神と巨人が大阪と東京の代理戦争をするのは勝手だが、実力が伴わないのをどうする。と、冷ややかに見て、気まぐれに声援を送ったり、無視したりしているのが、へそ曲がりな〝アンチ巨神ファン〟なのである。(2021-4-29)