去る6月5日に配信された、朝日記者サロン『せめぎ合う米中〜日本の針路』なる対談をネットで見た。朝日新聞政治部の倉重奈苗記者の司会で、兼原信克・前国家安全保障局次長と笹川平和財団上席研究員の渡部恒雄氏が解説する試みだった。現役時代の番記者の一人で、中国特派員も経験した旧知の同記者からのお勧めだったが、中々の知的刺激を受けた。その際、兼原氏の発言で二点興味を唆られた。一つは、昨今の中国の台頭の背景には、西側諸国の没落が始まったとの認識があるとの見立て。もう一つは、戦後日本の生き方に外務官僚として責任を自覚していると読み取れたこと。この二つから、彼の著作を読もうと思い立った▲表題の本は、正確には陸海空の3自衛隊元幹部の座談会で、兼原氏は司会役。普段は殆ど聞くことのない自衛隊の本音が伺え、滅法興味深い議論が続く。とりわけ、陸海の元幕僚長が「領土と国民を守る」戦い方の相違を巡って、激しくぶつかるくだりは生々しい。異文化のもとに培われた両組織の差異が、映像で見るようにリアルに迫ってくる。この二人は同期で、空自の元補給本部長は少し後輩。人選の巧みさが光る。ここでは、「平成の国防」を国会議員として論じてきた立場から、正直な受け止め方をほんのさわりだけ披露してみたい▲ここでの議論の前提には、中国は「力による現状変更を躊躇しなくなった」との認識がある。台湾と尖閣の有事は同時に起こるーその時に自衛隊は本当に国土、国民を守れるか。日米同盟は機能するのか。国民に備えはあるのか。兼原氏が「3名将」の奥深い戦略眼を引き出し、自らの歴史観を織り交ぜての展開は微に入り細にわたる。例えば、台湾に対して「日本の防衛装備を売って、同時にメンテナンスやトレーニング、更には空港、滑走路、港湾、道路などの軍事施設の公共事業も一緒にやってあげられるといい」との提案を示す。と同時に、これらのこと(軍民共用施設の建設)でさえ、日本は「平和主義のイデオロギーに縛られて」難しいとの現状を明かしている。このため「いっそ防衛省の能力構築支援の予算の方を拡充して」、防衛省直轄でやるといい、とまでいう▲8年前まで国会の現場にいた私としても全面的に首肯せざるをえない実態であった。だが、昨今の中国・北東アジアの情勢認識は変化を余儀なくされている。国会はコロナ禍対応一色だが、こうしたテーマを含めて関係委員会で、しっかりした議論を着実に深めていくべきではないか。この座談会では「専守防衛の日本は列島に閉じこもっていればいい」との議論が「国防」の妨げとなっていると随所で強調されている。確かに、私は「領域保全能力」のもと「水際防御」をすれば、平和を実現出来るとの考え方を持っていたし、今もこだわりがあることを認めざるをえない。同時に、「平和外交」の展開が欠かせないとして「外交」に責任を転嫁したことも。(2021-7-13)