ほぼ1ヶ月まともに本を読まずに過ごしたが、ようやく総選挙も終わり、この読書録も再開したい。取り上げるのは、日本最大の自然保護団体である「日本熊森協会」の森山まり子前会長から、読んで頂きたいと送られてきた本だ。「『脱炭素』が世界を救うの大嘘」がサブタイトル。環境派(「脱炭素」優先)vs経済成長派(「原発」優先)の是非を問う動きが世界を分断させつつあるが、この本は、前者の「非」を徹して叩き、後者の「是」を〝そこはかとなく〟主張する本である。私は、「真実は中間にあり」との信念を持つ。この問題も結局は、両者の中間に落ち着かせるしかないと思っている◆13人の論客たちの揃い踏み。私の興味を引いた論考は4つ。まずは、編著者の杉山氏(キャノングローバル戦略研究所研究主幹)の「世界的『脱炭素』で中国が一人勝ちの構図 『環境』優先で軽視される人権問題」から。長い見出しが全てを物語っており、このテーマが、一皮向けば、中国に率いられる後発諸国と欧米など先進諸国の争いだということを明確にする。現代世界の異端児・中国を敵視扱いしたい気持ちは分かるが、それを平和裡に乗り越えねば、地球に明日はない。杉山論文始め「再エネが日本を破壊する」との第一章の他の3論考を読むにつけ、「原発」重視の意向が透けて見えてくる◆次に第2章「正義なきグリーンバブル」からは、ジャーナリストの伊藤博敏氏の「小泉純一郎元首相も騙された!魑魅魍魎が跋扈『グリーンバブル』の内幕」を読む。見出しから予想される通り、東京地検特捜部がこの5月に摘発した再生エネルギー会社「テクノシステム」の詐欺事件について斬り込んでいる。この事件では私の後輩の元衆議院議員が、残念なことに現在捜査対象になっている。総選挙前には、嘘かまことか、ターゲットは広告塔になっていた小泉親子で、T元議員は哀れなダミーと囁かれていた。第3章「『地球温暖化』の暗部」からは、有馬純東大特任教授の「現実を無視する『環境原理主義』は世界を不幸にする」が読ませる。「環境活動家はスイカである」という謎かけを引っ張り出して、かのグレタ・トゥーンベリを叩き、全体主義、社会主義との親和性をあげつらっている。その心は、「外側は緑だが中は赤い」ときた。中々面白い。有馬さんといえば、我が党の原発推進論者との党理論誌上での対談が印象に残る◆第4章は、産経新聞論説委員の長辻象平氏の「コストも妥当、安全性は超優秀 世界で導入が進む『次世代原発』の実力」。「原発」がしんがりに真正面から登場。「やっぱり」との思いが強い。「安全安心の『高温ガス炉』」と言われても、俄に信じがたい。ここでは「中国では日本と対照的に、政治主導者がエネルギーの重要性と高温ガス炉の科学技術をしっかり理解している」と、日本を貶め、中国を妙に持ち上げている。こう書いてくると、私があたかもゴリゴリの環境派に見えてこよう。しかし、いささか極端で気になったくだりを挙げたに過ぎない。最初に述べたように、私はどちらにも真実は含まれ、嘘も混じっていると思っているだけだ。さて、森山さんはどうしてこの本を私に読めと勧めるのだろうか。スイカ割りをして、その中がどんな色か、試すつもりなのかもしれない。(2021-11-10)