[14]失われたものへの貴重な気付き──大隅良典・永田和宏『未来の科学者たちへ』を読む/1-3

 初夢を見た。経済的に恵まれない若者たちに、私が資金を提供する基金団体を作って喜ばれているというものだ。かねて人生最後の望みがそこにあることを、身近な友人に吹聴してきたからに違いない。実は、昨年暮れも押し迫った頃に、姫路出身東京在住の仲間たちの集い「姫人会」が久しぶりに開かれた。その際に、元日経新聞記者から東京工大副学長を経て、現在は公益財団法人「大隅基礎科学創成財団」の常勤理事を務める異色の経歴を持つ才人・大谷清さんから、標題の本をいただいた。出版したばかりの『77年の興亡』を差し上げた代わりだったので、文字通り物々交換となった。よければ読書録に書いて欲しいとのことだった。

 そういう目的で本を貰うことはあまりないこともあり、喜んで年末から貪り読んだ。2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅さんは、冒頭に書いた私の夢に近いものを既に見事に実現されている。卓越した文筆家でもある著名な生物科学者の永田和宏さんの興味深い論考と、友人お二人の対談を織り交ぜた本だが、実に面白く楽しめた。私のような年老いかけた政治家が読んでも貴重な〝気付き〟が幾つもある。科学に近寄りがたいものを持つ全ての人たちに勧めたい好著だ。

●直面する基礎科学分野の危機

 大隅さんがこの財団を作るに至った背景には、基礎科学の分野が危機に瀕している現実がある。国のお金にだけ頼らず広く寄付を募り、基礎科学の理解と振興を目的としての、眼を見張るべき挑戦だ。これは「新しい社会的実験」だとする大隅さんらの試み。それへの宣伝の役割をこの本は持つともいえよう。大いに啓発された。遠い昔に、父親から『なぜだろう なぜかしら』という本を買って貰ったことを覚えている。科学的なものの考え方に興味を持つきっかけを作ってくれようとした親心だったはずだ。だが、後に高校時代に、いわゆる出来のいい友人たちの多くが理系志望だったことに反発する思いもあって「試験管を動かすよりも、人の心を動かす」のだと、私は心密かに息巻いた。そして政治学の門を叩いた。

 以来、半世紀近くが経って、国会の場で、基礎科学への財政的支援をするべし、との気運が公明党内でも起こり、私もその気になったものである。しかし、結局は確かなる手応えの結果はもたらすことができなかった。大隅さんは恐らく政府、政治家に頼ることを諦めて、自ら財団を作る決意をされたのだろう。日本人が総じて「議論」が苦手であることはもはや通説だが、この本ではその代表例として政治家のケースが挙げられている。「いま議論の虚しさを感じさせる場面は国会かもしれない。議論が破綻していることは誰の目にも明らかだ。日本の政治の劣化は著しい」──この指摘は悔しい思いもするが、文字通り的中している。

 この本の二人の著者は私と同世代。様々な意味で現代日本についての思いは共通する。国会、政治家の劣化を指弾されて、人生をこの分野だけで生きてきた者として、恥ずかしくないかと言えば嘘になる。残念ながら同調する気分は抑えがたい。いったいどうしてこんなことになってしまったのか。大隅さんは、テレビで映される国会中継を見て、「議論の中から新しいものが生まれる生産的な活動だと実感することはできようもない」と手厳しい。

 私は先に出版に漕ぎ着けた自著の最後に、国会議員の質問を査定する機関を民間で立ち上げる提案をしている。色々と障害はあっても、やってみる価値はあろう、と。基礎科学への支援を広く呼びかける試みに見倣って、今の国会、政治家を建て直す企てへの支援を呼びかける財団でも作ってみたい。これは〝正夢〟にしたいのだが。

【他生のご縁  高中小の子どもたちとの語らいに参加して】

 大隅さんが姫路にやってくるので、科学好きの高中小生たちを集めて欲しいとの要望を受け、関係筋に声をかけると共に、自分も大いに楽しみにしていました。その日は会場いっぱいに詰めかけた子どもたちとの質疑応答。「ノーベル賞を取るにはどんな勉強をすればいいか?」「壁にぶつかった時には、どんな気持ちでしたか?」と言った質問に丁寧に答えていました。「苦手だからやらないとか、役に立つからやるという観点だけではいけないよ」「私のこれまでの道は失敗ばかり。失敗を恐れてはいけないよ。何をそこから学ぶかが大事です」などと、大人にも通用する大事な話でした。

 「ミケランジェロとダヴィンチとではどっちが好きですか?」との質問が少女から飛び出しました。即答出来ずタジタジと見える場面も。この人らしい真面目さが伺えて微笑ましい感じになりました。また、最後に高校生から安倍元首相の国葬についての問いかけには「手続きに問題があり、個人的には反対です」ときっぱり。会場を後にされる間際に立ち話。「所属する公明党としては賛成ですが、私も先生と同様に個人的には反対です」と伝えたしだいです。

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