【21】強みは集団力──大石久和『[新版]国土が日本人の謎を解く』を読む/2-13

 「国土」から説き起こす「日本人論」

 今回は国土交通省の元最高幹部のものを取り上げる。この人は退官後20年近く「国土」にまつわる関連機関に関わってきた。とっておきの「日本人論」である。この人のものを私は初めて読むが、これは実に興味深い中身である。大石久和さんは私と同い年。しかも郷土を同じくする。その上、畏友・太田昭宏元公明党代表と京大「土木」で机を並べた間柄というから公明党理解は年季が入っていて、深い。

 21世紀劈頭、私が衆議院国土交通委員長を拝命した当時、この人は道路局長だった。国会議員として既に8年ほどが経っていたとはいえ、全く未知の分野の委員会を仕切らねばならぬとあって、緊張した。観光庁、海上保安庁、気象庁や北海道開発局など多岐にわたる業務について、その道の達人たちが優しく手ほどきをしてくれたが、そのうちの一人が大石さんであった。懐かしい日々を瞬時思い出す。

 実はもう一人、同じ昭和20年生まれの河川局長がいた。文明評論家として今や名高い竹村公太郎さんである。この人は役人時代からペンネームで業界紙にあれこれと書いていたし、退官後は一気に作家への道に邁進された。2003年には早くも『日本文明の謎を解く』を著すなど、次々と興味深い作品を発表してきた。私もそのうち何冊かを小欄で取り上げてきたものである。大石さんの方は10年ほど遅れて〝物書き稼業〟に参入されたようだ。数年前に出されたものの新版ということだが、私の著作をお送りしたお返しのようにいただいた。喜び勇んで読むに至った。期待に違わず大いなる刺激を受け啓発されている。

 若者への対中誤認識に警鐘ならす

 この本は「日本人が長い歴史の中で国土の自然条件から得た経験を他国と比較し、日本人の強みと弱みを解き明かしたもの」である。私は第2章「なぜ『日本人』は生まれたのか」に強く惹きつけられた。そこでは「日本人」を育んだ10の条件が列挙されている。①不便な形②一体で使いにくい③分断される④土砂・土石流災害が襲う⑤可住地が分散⑥近代的土地利用がしにくいーなどなど。他国にないこれらの厳しい国土の条件が重なり合って、特異な日本と日本人が作り上げられてきたことを大石さんは克明に解き明かす。さらに、大陸との距離と、台風の通り道に弓状の形で存在する位置を付け加える。これらが孤立、独立した文明を可能にし、飢饉をもたらし、黒潮の流れの中の「るつぼ」を生み出した。著者はこの章で、日本は中国文明の影響を受けただけの辺境の民族である、と誤認識している多くの若者に強い警鐘を鳴らしている。ぜひ未来を担う彼らに読んで欲しいものだ。

 以下に続く各章で、「世界の残酷さを理解できず」に、「権力を嫌う」うえ、「長期戦略がない」などと言われる日本人の特徴が中国や欧米と比較されていく。数多の知識・文化人たちの著作の一節を引用しながらの説明はまことに分かりやすく、適切で示唆に富む。そんな中、内外の経済学者への不信感とでもいうべきものがが随所に顔を出す。社会資本をめぐる誤解や曲解をもたらす原因がメデイアや経済学者の無理解にあるとの持論の展開だ。従来から経済学の偏向に疑問を抱いてきた私としては、強い共鳴を禁じ得ない。

 最後に大石さんはいわゆる戦後民主主義教育が、いかに本来の日本人のありようを歪めてきたかを指摘しているくだりが興味を惹く。「日本人の強みは集団力」にあることを強調しているのだ。「参加意識、当事者意識を持った組織構成員の集団パワーがこの国を再生する」という結論にも私は全面的に賛同したい。尤も、私の場合は、国境を越えた壮大な民衆パワーを発揮しつつある創価学会・SGIが、日本と世界を再生させることに期待するところ大なのであるが‥‥。この辺りについての論及をまた別の機会に期待したい。

【他生のご縁 同世代の国交省ゆかりの仲間】

 国土交通省と公明党の関係が極めて深いものになっていることは、大臣を連続して7人も送っていることでも分かります。衆議院国土交通委員長を務めたに過ぎない私ですが、それでも大石さんをはじめ、友人が省内、OBにいます。彼は公明新聞にも寄稿してくれ、多くの固有のファンがいるほどです。

 経済学については、大石さんは、公共事業のあり方をフローとでしかとらえず、ストックで見ようとしないメデイアをも批判しています。私の「経済学者批判」は、学生時代から今に続く「経済学オンチ」に由来する偏見に満ちたものとの自覚がありますが、ここで大石さんの応援を得て力強く感じます。

 退官後は活発に行政をバックアップする講演や執筆活動に力を注いでおられます。同じ世代として、大いに共闘を誓うものです。太田元代表を交えて、大石、竹村、そして私も加えて貰い、日本の国土をめぐる座談会でも開き、本に出来たら面白かろうと思っていますが‥‥。

 

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